03 すずしい保健室

 学校では、誰も何も言わないし、言ってこない。わたしからも、特に何も訊かない。今のわたしの出席日数とか、授業取得具合とか。分からないし、知らない。


「あら。おねむですか?」


 保健室の先生。


「先生は恋人とチャット中ですか?」


「そう。まだ会えないから」


 なんか、かっこいい車に乗ってるひとだったような、気がする。


「正義の味方だから。保健室でだらけてる私にはもったいないぐらいよ」


「それが建前なのね。じゃあ本音は?」


「逢ってぐちゃぐちゃにキスしたい。今すぐにでも。生きててくれてありがとうって」


「なんでキスなの?」


「新しい口紅買ったの。味がするのよ」


 放り投げられてくる。


「安物じゃん」


「それがいいのよ。塗り放題だから」


「へえ」


 塗ってみた。たしかに、ちょっとだけ、おいしい。


「塗るだけだと、ちょっとおいしいだけなの。でも、その口紅でキスすると、やわらかく二人の間で口紅がとろけて、まるで」


「ぐうぐう」


「寝ちゃったか」


 キスで美味しくなる口紅の話より、睡眠のほうがお得だと思いましたので。


「おやすみなさい。よい夢を」


 保健室の電気がちょっと暗くなる。睡眠モードのやつ。


「私に会ってくれて、ありがとね」

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