第16話 旅の始まり
雨でぬれている土はやわらかくて、とても掘りやすかった。
大人一人が入る穴なんて、一瞬で掘ることができた。
ジュリアさんをその穴に入れて、土をかぶせる。
それから、近くで咲いていた花をその上に添えた。
ニンゲンはこうやって死んだ人とお別れするらしい。
「少しだけ一人にさせて」
ルーチェがそう言ったから、わたしは先に家の中に入る。
コツンと足にかたいものが当たった。
あいつの体を形作っていた白い部品だ。
そういえば、わたしの家にはこういうものがたくさんあった。
「――人間は容赦なく追い詰めた、ね」
わたしには、お父さんもお母さんもいない。
たぶん人間たちに殺されたのだろう。
あの白いものは、わたしの両親に反撃された人間たちの物に違いない。
わたしにはお父さんもお母さんもいないし、その愛情も知らない。
だから、泣いているルーチェを見て、ほんの少しだけうらやましいと思った。
ルーチェが受けてきた愛情の大きさを実感した。
そして、ジュリアさんを奪ったあいつに今まで以上の怒りがわいてきた。
足元にある白い物体。
わたしは足を振り上げて、それを思いっきり踏み砕いた。
「いいねそれ、私もやる」
ルーチェは家に戻ってくるなり、白い物体を蹴り飛ばした。
壁に当たって粉々になる。
「もういいの?」
「うん。ちょっとだけ落ち着いたよ」
その表情はいつものルーチェではないけれど、少なくとも悲壮感は薄れていた。
旅の道順は、前にルーチェと話していたものにした。
最初の目的地は、『星観の塔』。
村から30日くらいで着きそうな距離にあった。
わたしたちに大きい荷物は必要なく、準備はすぐに終わった。
お兄さんからもらった本だけあればいい。
道順もこの本が教えてくれる。
今なら、もう雨にうたれても気にしない。
村を出るとき、ルーチェはジュリアさんのお墓に手を振った。
「行ってきます」
そして、旅路につく。
目指すは星観の塔。
これから、わたしたちの旅が始まる。
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