#28 タコパと直感【永山大貴・悠馬】

 “よじかんめ”会議の結果、タコパは開催されることが決定。


 巧は念願が叶う〜! とか何とか言って、すっげえ目を輝かせていた。お前は小学生か。最年長のはずなのに、最年少みたいな立ち位置たまに取ってくるから不思議だ……。何か憎めないキャラっていいよな。



 程なくして、たこ焼きパーティーの日がやってきた。カレンダー見ながらウキウキしちゃうくらいには、俺は楽しみにしてたぞ。京汰に「大貴、目がキラキラしてる」って言われるくらいには楽しみにしてたぞ。俺も巧と同類だったわけだ。


 女子陣は先に京汰の家に行って、道具の準備。俺ら男子陣は、女子に言われたものを京汰の近所のスーパーで買ってくる係だ。大学から電車と徒歩で35分ほど。最高のアクセスである。女子陣が『京汰くんの家、普通に広かった』と写真付きでグループLINEに連投していた。やはり京汰の家はベストプレイスだったようだ。

 7人分の食料ともなると、男子でもさすがに重く、焦がすような日差しの中ヒイヒイと鳴き声を上げて家に向かう。会長が特にヤバくて、白くてほっそい腕が折れそうになっていた。そしてついに「俺を殺す気なのかお前ら……」と謎の覚醒を始めたので、俺と巧で荷物量を半分にしてやった次第である。

 どうか冷房ガンガンに効いてますように。どうかオアシスでありますように。


 15分ほど歩いて、京汰の家に着いた。近い方なんだろうけど、炎天下の15分はなかなかキツい。京汰の家は女子の言葉通り立派なお家で、冷房も効いてました。生き返った。


 たこ焼き食いつつ、焼きそばもピザも食べた。ホットプレートすごい。そして会長と巧がめっちゃ食う。巧は運動部だったらしいから、まぁ分かる。でも「俺運動神経神様に抜かれたんだわ」と開き直る会長の食欲鬼だな。しかも食うスピードがえげつなく速いし。それで痩身とかお前、胃腸も抜かれたんじゃねえのか?


 2人のあまりの食いっぷりに女子から「大貴も食べな!」と言われてた真っ最中、インターホンが鳴ってなぜか隣の人のお孫さんって人が2人やってきて、すごいスピードで俺らに馴染んで小一時間くらい喋ってたこ焼き食って帰ってった。お孫さんの顔が同じすぎて最後まで見分けつかなかったけど。

 話によると京汰のバ先の先輩で、「おばあちゃんに会いに来たらめっちゃいい匂いするからきょーちゃんの家寄った」らしい。きょーちゃんって呼ばれてんの京汰。可愛いなお前。京汰はお孫さんの顔認識が完璧だった。スマホにもよく間違われるらしいが、京汰は3日経てばちゃんと覚えたらしい。スマホよりハイスペックじゃん。

 ちなみに実を言うとこの家、たまに謎の冷や汗をかいたり、一瞬全員の会話が止まったりする時があるのがちょっと妙なんだけど、それ以外は完璧。何だろ、俺だけなんかな。


 たらふく食って他愛もない話ばかりしてたけれど、期末テストやレポートから解放されて全てが今楽しい。たくさん食べつつも、みんなに料理を取り分けるとかの気配りも忘れないカレンを見れて、俺は心もいっぱいです。なんて言ったらまた気持ち悪いかなぁ。

 なんか甘いもの欲しいよなぁ! って巧が言い出したので、京汰が冷蔵庫を覗き込んだけど、弱々しく「ごめん、今ないや……」と呟く。

 一旦取り皿を片付けるために台所に向かったら、“ドライフルーツ”と書かれた瓶があった。中は……桃? とアンズ、かな。


「京汰、ここにドライフルーツあるよ」


 割とたくさんあって美味しそう。

 でも京汰は俺を見て、超驚いた顔して俺の元に走ってやってきた。


「ダメダメこれは絶対ダメっ」

「えええうまそうなのにいいい」

「こっ、これはっ!……その、おばあちゃんにあげるために取っといてるやつで……!」

「お、おぅ。そりゃすまん」


 家の提供もなんだかんだしてくれた京汰が、ダメなんて言うの珍しいなぁ。てか大事なものに手をつけようとしてすんません。


 カレンが「私、甘いもの買い出し行こうか?」と言ったので、すかさず「俺も行くよ!」とアピール。他のみんなは暑い外に出る勇気がないらしく、2人でみんなのリクエストしたものを買ってくることになった。

 カレンと2人きりなんて、初めてで。急に来たチャンスにちょっとたじろいでしまいそうになる。



 外に出た瞬間、「あっつーい!」と言って笑うカレンの顔は、夏の日差しに照らされて美しさを増していた。あぁ、そのブロンズの髪の輝きが眩しい!

 今しかないよなと思って、俺は勇気を振り絞る。家族には母も姉も妹もいるのに、カレン相手だと心臓が口から飛び出そうなくらい緊張してしまう。らしくないなぁ俺!


「カレン、あのさ……、今度どっか飯行かない? 2人で話すってあんまなかったし」

「え〜いいね! いいよ! 誰誘う〜?」

「……だ、誰にしよっか…………」


 ……ダメだこの人。最後の言葉聞いてない。この暑さの中熱湯をかけられたような感じ。溶けそう。

 永山大貴、この夏は、カレンちゃんと仲良くなるために頑張ります。




・・・・・・・・・

<ねぇ京汰……大貴のことだけど>

(うん、危なかったよ〜悠馬。あの干し桃とアンズは結界張るための超重要アイテムだから食べないで、なんてホントのこと言えないしさぁ〜)

<それもそうだけど、気づかなかった? 大貴の様子>

(え、何が?)

<んもうっ!>


 やっぱり京汰は大学生になっても鈍感なのね。もう呆れちゃうわ。


 初めて出会った時から、そうだった。

 ちょっかいを出す僕を京汰が睨みつけた時、大貴は不自然そうな目を向けた。

 京汰がバイトデビューを大貴に伝えた時、僕の“気”がある方を見ていた。

 そして今日——。


 僕が移動する度に、彼は体を少し強張らせるんだ。学食ではそんなことなかったのに。

 多くのあやかしが出入りするこの家に入った瞬間、彼は確実に敏感になっている。




<ねえ京汰。大貴はこの家の妖気ようきに、気づいてる>

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る