【後編】俺の恋敵が人間じゃないなんて聞いてないんだが 〜俺はブレザーを脱ぎ捨てる〜

水無月やぎ

あれから俺達は

#1 ちょっくら復習をしましょうか

 皆様、お久しぶりですね。……いや、そこまでお久しぶりでもない? てかお呼びでない? もう悠馬ゆうまだけで良い? そんなバカなこと言わないで下さいよ、俺あっての悠馬ですからね?

 あ、もしかして、急に「お久しぶり」とか言われてもあれですか、「お前誰」って感じですか。……そりゃあ失礼いたしました。俺のことみんな知っちゃってる体で話しちゃってました。



 俺は、藤井京汰って言います。大体「藤井」とか「京汰きょうた」って呼ばれています。で、悠馬ってのはね……これまたちょっと面倒な関係なんですけれど。ご説明させていただくと、式神しきがみです。もう一緒に暮らし始めて4年目です。あ、神じゃないです。死神に4年も憑かれるわけないじゃないっすか。俺を勝手に殺さないでくださいまし。


 式神ってーのは、「陰陽師が使役する鬼神のこと(出典:Wiki○edia)」でございます。安倍晴明さんとか知ってます?……あ、お名前は聞いたことあると。まぁその程度ですよね。この人は稀代の陰陽師と呼ばれた人で、お祈りとか占いの専門家だったんです。で、時にあやかしとか目に見えない、人々に災厄をもたらすものを陰陽道の術を駆使して調伏ちょうぶくしていた、というわけなんですが。


 俺は、そういう陰陽師の家系の末裔に当たります。今じゃオカルトとか嘘っぱちとか散々な言われようですが、一応術師の血を引くものとして、細々と修行してるんですよ。で、そうした陰陽師が使役してたのが式神。それが、俺の同居人であり、世話係であり、バケモンの悠馬くんなのです。


 ただコイツ、黙って使役されてるだけの奴じゃなかったんです。元々は両親が海外赴任で、今日本で一人ぼっちの俺のお目付役というかボディーガードというか話し相手というかって感じで、身内ながら、かなり優秀な陰陽師である俺の父親によって作られたんですけど、コイツやりやがりました。


 なんと、俺が通っていた高校のマドンナ・篠塚華音様に恋をしてしまった! かねてから彼女に想いを寄せていた俺の、恋敵になりやがりました。俺の世話するにも一言二言、いやそれ以上に余計な言葉、さらには俺の悪口まで目の前でナチュラルに吐いていく憎たらしい式神なのですが、コイツは憎たらしい恋敵にもなってしまったのです。


 悠馬は悠馬なりに色々悩みながら恋をしていたようですが、俺とて恋する思春期男子。バチバチの関係になった結果、恋を優位に進める条件として、中間試験全教科平均点以上の獲得を悠馬に求められ、今まで成績最下位付近がデフォルトだった俺は燃えに燃え、見事その条件を突破。


 だがその後色々ありまして(気になる方は前編読んでくれたら嬉しいぞ! 前半そこそこネタバレしたけど! 気になる方は今すぐここでリターン!)、俺はどん底期間を経て、あっという間に文化祭の季節に。俺と悠馬は互いに華音様への恋心を募らせながら、事態は割と突飛な方向へ進んでいったのです……。



 とまぁ、前置きというか、前編の復習はここまでにしておいて。


 もしあなたがお呼びでなくてもね、藤井京汰くんは勝手に話しちゃいますよ、そういう人間ですから。話したいことたくさんあるんだもん。女子だよねこういうとこ、って自覚してるよ十分に。



 実は俺、今茶髪にして、左耳だけピアス開けてます。やっぱ新しい環境には、外見から変えて入っていかなくちゃ。悠馬には『本当に、本当にバカだね……』って言われたけどな。でもバカは俺の専売特許なんで。むしろ誇りですから。えっへん!


 え、なんで外見を変えたのか? それは当然、大学生になったからですよ。すんげぇ成長した気分。今俺、ピッチピチの大学1年生です! 時系列的・設定的にはそうなんです。俺は今作者によってそういう設定にさせられてまして……コホン。



 ——そう、あれから3年くらい経っちゃう。俺と悠馬が華音様を妖から救って、ホラー映画デートが悠馬によってぶち壊されたのはもう、遠い過去の話。

 その間に何があったのか、サクッと話そうと思うから付き合ってくれよ。……あ、付き合うって、あなた達が期待してるような意味じゃなくてよ? へへっ。


『誰も期待してないよ、チャラ陰陽師』


 こいつやっぱうるせえな。今まで悠馬コイツを消さなかった俺偉いけど、もうその時は近づいているのかもしれません。なーんてね。


 じゃあ、俺の昔語りを聞いてくれよな。

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