046 落下
りんごがポトリと落ちた。
言ってしまえばたったそれだけのことに、ある
答えは、まあ、わからない。
FPSというゲームを始めていなかったら、俺はどうなっていたのだろうか。反応チートに気づくこともなく、プロゲーマーにもなっていないのだろうか。そんな世界線だったとしても、
「はい。どうぞー。」
差し出された黄色いマグカップを受け取る。クマのイラストが入っている。かわいい。
「ありがとう…ございます。」
ちなみに俺は今、とても緊張している。なぜか。ここが悠美さんの部屋だから。
■
時は十数分ほどさかのぼる。
今日は楽しい楽しいデートの日だった。付き合い始めてどれくらい経っただろうか。最近、やっと手をつなげるようになった。手をつなぎながら、歩く帰り道。
少しでも一緒にいたいので、いつも通りの遠回りをした。それが
「わーっ!雨っ。」
あいにく傘の持ち合わせがない。幸いにしてタオルはあったので、ちょっと失礼して悠美さんに
「あ、ありがとうございます。」
そんなこんなでバタバタ。駅に戻ろうかとも思ったのだが、距離的に悠美さんのお家の方が近かった。
―――まあ…
そんな
悠美さんはというと、かわいらしい部屋着姿。…何をとは言わないが、見てはいない。断じて。
「降り止んだら、帰りますので…。」
マグカップをカイロがわりにしつつ、そう
「じゃあ…ずっと、
悠美さんが隣に。こぶし1個分の距離。
「…悠美さ…っくしゅん!」
なぜ、今。
「んふふっ。ぎゅっ。」
「わっ…。」
こうやって抱きしめてもらえたのは、何年ぶりだろうか。
俺の両親は、仕事で世界中を飛び回っている。それは昔も同じ。シチュエーションも何も覚えていないけど、母さんに抱きしめられたとき、とってもあたたかくて、とっても安心したことだけは覚えている。
言葉にはしないけど、さみしかった。
「…悠美さん、俺…。」
感情を言葉にしかけたとき、強烈な
コーヒーだろうか。苦みだけが、ほのかに残った。
――――――第一編 終了
――――――作者からのご報告
第一編、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このお話は、落としてしまったトーストを途中で救いたいという、まあ、なんとも言えない作者の願望からうまれた作品です。トーストって、なぜ、ジャムとかバターを塗った面を下にして落ちてしまうのでしょうか。よく物を落とす作者からすると、結構切実な疑問だったりします。
それはさておきまして。第二編からは、大樹の冒険ストーリーをお届けしたいと思います。少しでも楽しい作品をお届けできるように努めますので、今後とも、よろしくお願いいたします。
くるとん
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