038 実力
「
「さすが、だいちゃん!」
母さんに抱きつかれた。
「感動した…。」
父さん、まさかの涙。
「これで明日からの売上が…ぐふふ…スポンサーやっててよかったっ!」
おっちゃん、お金に目がくらみかけている。
そんなこんなで無事に初戦突破。
『さあ、カウンターの興奮冷めやらぬところですが…このまま第二試合に移りましょう。』
「カナさんの相手選手…去年、準優勝した人じゃなかった?」
大会パンフレットの表紙、前回大会の写真に載っている人だ。FPSの動画を見まくっている俺にとって、画面の向こう側にいる存在。いわゆる有名人。後からサインもらおう。
「そうそう。まあ、組み合わせはランダムだからね…。こればかりは…。」
俊が少し残念そうな表情を浮かべる。もちろんカナさんはとてつもなく強いし、勝負は
―――それでも…。
対戦系のゲーム、その勝敗は実力が
まあ、それはさておき、実力が反映されるからこそ、ゲームはおもしろいのだ。もちろん運要素の塊であるじゃんけんだって楽しいのだが、じゃんけんを何時間もというのは…さすがにつらいと思う。プレイングスキルが上達したり、おニューな装備を入手できたり、とんでもない戦略を思いついたり。成長する要素があるからこそ、熱中できる。
だからこそ、
『まずは今年度FPSポイントランキングトップ。圧倒的な知識に裏打ちされた戦略の数々。常に新作を追い求めるその姿勢は、まさにストーリーテラー。
和風と形容しても差し支えない音楽とともに、レッドカーペットに一筋の光がさす。そこに映えるは着物をアレンジしたような桜色の衣装。どこか落ち着きのある雰囲気が会場を覆う。
―――そうか…服ももう少し考えればよかったな…。
自分の足元に目をやりつつ、若干の後悔。動きやすい格好が一番と思い、ラフというかカジュアルな感じの服装だ。無論この服に問題はない。実用的だし。ただ、開会式の時も思ったのだが、はっきり言って浮いている。出場選手の皆さん、こだわりの服装なのだ。
―――まあ、ものは考えようか。
会場の皆さん、別にファッションショーを楽しみに来てくれているわけではない。ゲームが見たいのだ。だとすると、俺ができることはただ一つ。
『対するは…前回大会準優勝、FPSの世界に新たな分野を持ち込んだ男。それは高度な戦略であり、華麗な芸術でもある。確率の壁を超えるその
■
一瞬の
『レディー…ファイッ!』
キャラクターの動きだしに合わせるかのように、会場のボルテージが上がる。
『さあ始まった!っと、ここでやはり来ましたね!』
残り時間を示す時計が停止し、ポップアップがスクリーンに現れた。トリック選手と言えば、この技。
『備えるは
俺は反応でカウンターを決めているが、技の効果でカウンターを成功させる方法がある。それがこの「第六の
相手の使用する技を予想し、備える。より正確に言うならば、技のボタン4つのうち、どれを選択するのかを予想するもの。
正解ならば、当該攻撃を無効化し、倍の威力で撃ち返すというとんでもない技だ。もちろんリスクはある。不正解の場合、一定時間行動不能となってしまうのだ。「
まさにハイリスクハイリターン。
『承知!』
どうやら予想が終わったらしい。今度はカナさんの番。技を一つ、強制的に選択しなければならない。対戦で設定できる技は4つ。確率は4分の1。
確率的にそうそう当たるものではないのだが。
『おおっとぉ!さすがトリック選手、読み切ったーっ!』
当たるんだよな。これが。
的中率、脅威の8割。もはや不正を疑うレベルなのだが、もちろんイカサマではない。トリック選手は「フィーリングと少しの運」という、なんともおしゃれな説明をされていたが、その実は膨大なデータ分析による予測らしい。俊が説明してくれた。
即断即決が求められる格闘ゲームにおいて、技の構成というものは変えづらい。
コンマ数秒を争う世界において、一瞬の迷いは勝敗をわけてしまう。そういった状況下で技がパターン化されていくことは、避けがたい事実なのだ。もちろん「第六の備立て」に対抗して、突飛な技選択をすることもできる。できるのだが、それは相手の土俵に引きずり込まれることを意味する。
―――俺よりもチート級な気が…。
初めてトリック選手の対戦動画を見たときも、そう思った。まあ、俺はというと、技を使わない。使わないということは、データがないということ。というわけで、そこまで対策はしていない。
というよりも、対策のしようがないのだが。
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