017 運営
FPSの運営会社から書類が届いて1週間。父に同意書を郵送したりといろいろあって、今日の午後、おっちゃんのお店で運営会社の人と会うことになった。
「…。」
緊張からか、食欲が出ない。自分で作ったお昼ごはん。ひとり暮らしなので、食べきらないともったいない。少し冷めてしまったオムライス。ケチャップの甘酸っぱい匂いが広がっている。
30分かけてなんとか完食した。時計を見ると、もう少しで1時になる。予定は1時半なのだが、さすがに遅れるわけにもいかない。おっちゃんのゲームセンターは目と鼻の先。15分前くらいにはついておこう。
「歯磨きーぃ、歯磨きー。」
変な節回しで口ずさみながら、歯ブラシをとりに行く。まだまだ寒さが残っているので、暖房がある部屋から出るのは、そう、ちょっと勇気がいるのだ。
■
「おっちゃん、お邪魔しまーす。」
半分開いているシャッターから店内へ。
「大樹、ほら、これ見て!じゃーん!」
おっちゃんが目をキラキラさせながら、右手前に鎮座する
「あ!ついに来たんですね!」
そこにはFPSの筐体が置かれていた。まあ、知ってはいたのだが、実物をここで目にすると、何と言うか、感慨深いものがある。
今日はおっちゃんのゲームセンター、臨時休業である。インテグラル社と俺との会談のため、という理由もあるのだが、今日の午前中にこの筐体の搬入があったのだ。さすがに会談のためだけに休業してもらうのは申し訳なさすぎるので、おっちゃんがそもそも休む予定の日に合わせてもらった。俺はもう春休みに入っているので、都合もへったくれもない。
「いや…やってみたんだけどさ…面白いね!いいね!しかもダイキ先生のプレイングが生で見れるわけだろ。これは買って良かったよ!」
「あはは…。」
おっちゃんテンションあげあげ。
「大変光栄ですね。失礼しますよ。」
後ろの方から声がした。
■
「はじめまして。インテグラル社長、
まさか、社長さんが来るとは思っていなかった。その衝撃はさておき、隣には女性が一人と男性が二人。
「広報の
―――あ、電話くれた人だ。
「開発の
「
皆さんから名刺を差し出されているのだが、受け取り方がさっぱり。おっちゃんが対応してくれなかったら困っていた。こういう社会常識的なこと、今度、父さんからいろいろと教えてもらおう。
「ここの店長をしております。
名刺交換会が進み、場がひと段落。とりあえず挨拶を。
「
「大樹さん…いや、ダイキ先生!先生のプレイ動画見させていただきました!いや、感動ですよ。我が社のゲームにあんな可能性があったとは…。」
突然、社長さんが少年のような目で俺を見てきた。しかも「先生」なんて呼ばれる始末。たじろいでいると、坂崎さんからの助け船が到着した。
「しゃ、社長。突然すぎますよ…。」
「ああ、これは失礼…。あのカウンターを見た時は、本当に絶叫しましたよ!あまりの感動に。いやー、あれは進化ですね。」
結城さん、
「とりあえず、奥へどうぞ。」
おっちゃんに促されるかたちで、会談が始まった。
■
会談の内容は予想通りというか、書類に記されていた通りだった。
カウンターの攻撃力増加補正の見直しについては、インテグラル社のなかでもかなり意見が割れたらしい。自分で言うのも少し変だが、俺は真っ当なプレイングをしているだけなのだ。
驚いたことに俺が反対した場合には、見直しはなし、という結論に至るらしい。
まあ、俺としては何とも言い辛いところだが、拒否はしなかった。カウンター自体ができなくなるというならばまだしも、補正の値が変わるだけなのだ。根本的なところとして、俺はゲーム機を手に入れた時点で結構満足している。せっかく全国大会に出れるのだから、ある程度は活躍したいな、くらいの気持ち。無理に俺の利益を押し通そうとは全く思っていない。
「わかりました。ありがとうございます。…我が社としては、ダイキ先生のカウンターを超えるゲーム性を開発できなかった…これは
社長さん、運営サイドとして思うところがあるのだろう。インテグラル社の人には悪いし、ちょっと意地悪な言い方だけど、これは運営側の敗北に等しいと思う。基本仕様を変更するというのは、そういうこと。しかも、補正を見直したところで、俺のカウンターができなくなるわけではないのだ。
「見直しの件、これからも改善を続けさせていただきます。それでですね…ここからは開発協力のお願いなのですが…。」
そう、どちらかというと本題はこっち。俺が興味があるのもこっち。
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