016 対策

「対策?」



「うん。だって、このまま全国大会やったら、絶対、ダイキ先生の優勝じゃん。」



さすがにそれはないと思うが、そう思う人がいてもおかしくはない。現に俺は全国トップクラスであるワシさんをノーダメージで倒してしまっている。



―――というか…先生って…。俊まで…。



もちろん俺が不正をしているわけではない。ちゃんとルールのなかでプレイしているし、ルールの隙をつく突飛な戦術を使っているわけでもない。技も使っていないぶん、むしろシンプルな戦い方をしていると思う。



「じゃあ…カウンターできないようにされるとか…?」



そんなことされたら困る。いや、ゲーム機を手に入れた時点で目的は十分に達成しているのだが、これだけ注目されるなか、初戦でぼろ負けというのはちょっと辛い。



「さすがにそれはないでしょ。だって、大樹だいきはルールのなかで戦ったんだから。システム的に変な戦術を使っている…とかなら、何か言われるかもしれないけど。」



「そうだよな。うん、堂々としてよう。」



「そうそう。まあ、コンボボーナスの廃止とかじゃない?」



FPSでは、攻撃を連続で当て続けることで、攻撃力が上昇するという特典的要素がある。確かに妥当な提案ではあると思う。まあ、俺には不利益しかないのだが、ゲームバランスというものもある。コンボボーナスがなくなれば、俺がカウンターを当てなければならない回数も増えるわけで、その分、攻撃を受けるリスクも上がる。



「カウンターの1.5倍がなくなるとかは…?」



「まあ、それもあるかもね。俺が昔やってたゲームだと、猛威をふるいすぎた技自体が消されちゃったこともあるから…。」



―――うーん…少なくとも良い話じゃなさそうだな。



「そっか…まあ、覚悟しておいた方が良さそうだな。」





結局、俊の予想は当たっていた。ポストに届いていた書類には、カウンターの攻撃力調整について書かれていた。具体的には1.5倍を1.1倍に下げるという提案で、俺に賛否を求める内容だった。書面上は。



―――要するに、受け入れてくれってことだね。



普通、こういった連絡すらなく調整が入ることの方が多いと思う。そもそもゲームを提供しているのは運営サイドで、俺はお客さんの一人にすぎない。俺一人の意見のためにゲームバランスが崩壊ほうかいし、それこそ他のお客さんが離れてしまうことになれば大惨事だ。



―――連絡をくれただけ、ありがたいと思おう。



飲み終えたペットボトルを処理して、再び書類の続きに目を通す。


ちょっと勘ぐりをするならば、俊の存在が大きいと思う。俊が事務所を通してコンテンツ映像の使用許諾きょだく申請を出すとき、「友人が参加するので、その映像を使いたい」旨を伝えていた。その友人、まあ、どう考えても俺なわけで、俺は登録者100万人ごえのゲーム実況者を友人に持っているという事実がある。そんなことするつもりはもちろんないが、変な対応をされて俺が公表した場合、どう考えても企業側が負うダメージの方が大きい。いわゆる炎上というやつ。


それは深読みしすぎだとしても、連絡もなしに俺だけが不利益を受ける調整をされたら、いくら俺でも不快感を覚える。



―――まあ、一応連絡はしましたよってことだよね。



こればかりは仕方ない。俺はあくまでも遊ばせてもらっている立場。作っている側の調整に従うしかないのだ。

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