014 連絡

―――あ…電話だ。…誰だろう?



見たこともない電話番号だ。固定電話っぽい番号だが、知らない番号からの電話は少し怖い。



―――ん…。結構なってるな…。



電話というのは不思議なもので、とらないと変な罪悪感が襲ってくる。加えて父や母に何かあったのでは…という不安感も襲ってくる。



―――とるか…。ま、ヤバそうな電話なら、切れば良いし。



「もしもし。」



『お忙しいところすみません。私、インテグラル広報の坂崎さかざきと申します。香坂大樹こうさかだいき様のお電話でお間違いないでしょうか?』



―――インテグラル…?父さんの会社じゃないよな。



「はい。本人です。」



『突然のお電話申し訳ございません。先日は弊社へいしゃ主催の大会にご参加いただき、ありがとうございました。重ねまして優勝と全国大会出場おめでとうございます。』



―――弊社主催…?あ、インテグラルってあのインテグラルか!



数学用語ではなく、会社名の方。インテグラル社は、FPSの開発運営を手掛ける巨大企業だ。



「あ、ありがとうございます。」



『今、お時間よろしいでしょうか?』



「はい。」



『突然のお願いで大変恐縮きょうしゅくなのですが、弊社の方へお越しいただくことは可能でしょうか?もちろんご都合の良いときで構いませんし、交通費等も弊社で負担させていただきます。』



交通費まで出してもらえるとは、何だか変な申し出だ。何か問題でもあったのだろうか。



「あの…どういったご用件で…?」



『はい。大会でのゲームプレイにつきまして、少しお話をお伺いできればということでして。保護者様とご一緒にご足労そくろういただけるとありがたいのですが…。』



確かに未成年一人を呼び出すわけにもいかないのだろう。



「あ、えっと。両親、共働きでして…。しばらく都合がつかないんです。」



おそらく月単位で予定がつかないと思う。



『左様でございますか…。そうしましたら、弊社から書類をお送りさせていただきますので、まずはそちらにお目通しいただいてもよろしいでしょうか?』



「はい。すみません。」



おそらく同意書の類だろう。未成年だと、親の同意書なしにはできないことが多い。



『とんでもございません。お忙しいところお手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします。』



「はい。」



『では、失礼いたします。』



何だか背筋が伸びている。こういう電話は緊張するのだ。



「うん?何かあったのかい?」



「おっちゃん。実は今電話があって…かくかくしかじかで…。」



こういうときは相談。俺一人で考えていても、結論は出ないし解決もしない。まさかチートを疑われているとか、そういうわけではないと思うが、あんまり気分の良いものではない。



「なるほど。まあ、何かあったらこのお店に来てもらえば良いんじゃないかい?俺がいるし。」



なんと心強い。とりあえず父に連絡してみよう。母にかけると国際電話になるため、いろいろと大変なのだ。



「ありがとうございます。ひとまず父に連絡してみますね。」



「うん。あ、こうちゃん…じゃなかった、お父さん元気?」



父とおっちゃんは同い年で、小中高と同じ学校に通っていたそう。そんな事情もあって、俺はこのゲームセンターに入り浸る日々を送っているのだ。



「はい。日本中飛び回ってます。」



文字通り、飛び回っている。



「相変わらず忙しそうだな。まあ、無理せんようにって伝えておいてくれ。」



「あはは…ありがとうございます。伝えておきます。」



いずれにせよ、この時間はまだ仕事中のはず。家に帰ってから電話してみよう。





「…もしもし、父さん?」


『おお、大樹。何かあったかい?…じゃなかった、大会、優勝したんだって?おめでとう!』


「あ、ありがとう。」



父さんには俺の知らない情報網があるらしい。多分亜美の父ちゃんあたりを経由したのだろう。



「実は、かくかくしかじかで。」



とりあえず今日の出来事を伝える。インテグラル社から電話があったことと、本社に呼ばれたこと。



『へぇ、すごいじゃないか。何かもらえるんじゃない?』


「それはないと思うけど…。それでさ、東のおっちゃんがお店で対応してくれるらしいんだけど…お願いしても良いかな?」


『あぁ、洋介か。うん。父さんからもお願いしておくよ。』


「わかった。」


『いつも帰れなくてごめんね。来月の終わりには帰れると思うから。』


「ううん。お仕事、がんばって。…あ、それでその全国大会に出るんだ。来月の1日。日帰りで、俊と一緒に行ってくる。」


『え!?全国大会もあるのか?すごいなぁ。もしかしてテレビ中継とかされる?』



さすがに世界大会で優勝となれば、報道されることがあるかもしれない。でも、ゲームの大会が中継されているというのは…さすがに見たことがない。



「あぁ…さすがにテレビはないかも。あ、でもネットで中継されるみたい。」



父さんは機械系全般苦手だが、仕事がらパソコンだけは使えるらしい。パソコンとネット環境さえあれば、運営公式の中継をみることができるはず。



『わかった、試してみるよ。じゃあ、がんばってな。』


「うん。父さんも体調とか気をつけて。」

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