011 先生
会場のボルテージは最高潮。自分で言うのもなんだが、前回優勝者と謎のダークホース(俺)という好カードなのだ。
「さすがにワシさんだろう。あのラッシュを全部読めるとは思えんし。」
「いやいや、回避できたらコンボが続かんから、ダイキ先生が勝つよ。またノーダメで。」
ギャラリーさんの間で予想合戦が始まっている。聞こえる範囲で考えると、
―――ちょ…ちょっと恥ずかしい…。
何せ俊まで俺を「ダイキ先生」と呼称しているのだ。さすがに友人から「先生」なんて呼ばれるのは…ちょっとむず
『ダイキ選手、ワシ選手。準備はよろしいでしょうか?』
「はい。」
「もちろん。」
緊張の一瞬。この試合、初めの数秒で結果が決まると思う。開幕そうそうのラッシュをすべて回避し、カウンターを重ねられれば俺の勝ち。一つでも受けてしまえば、そこから持っていかれるだろう。なにせ俺には防御手段がない。技としてセットしているが、使えないのだ。
■
『レディー…ファイッ!』
相手キャラクターの動きに全神経を集中する。今までの傾向からして、
『風乱れて桜降る…』
春霞一閃のカットインだ。キャラクターが
―――集中…集中。
タイミングはかるうえで、焦りはご法度。
コンマ数秒の後、切っ先がわずかに顔を出した。
―――今だっ!
『春霞一閃をかわす…そしてカウンターだーっ!』
―――よしっ。あとはこの繰り返し…。
「…?」
相手キャラクターが光を
『風の移ろい』
聞いたことのないカットインだ。このタイミングで防御する意味はないので、防御系でもない。
―――…とすると…。
画面を確認すると、相手キャラクターにアイコンが乗っている。足のマークだ。
―――移動速度強化か!
気づいたのが少し遅かった。ギリギリで回避はできたものの、それが精いっぱい。回避が遅れているため、こちらのカウンターよりも相手の2撃目がはやいのだ。
風を切るようなスピード。自己強化系の技があることは知っていた。知っていたのだが、まさか貴重な技のストックを一つ削ってまで入れてくるとは。これは想定外だ。そもそもこういった格闘ゲームは、構成を変えることが躊躇われる。わずかな迷いが反応を遅らせる可能性があるため、自分の得意を押し付けた方に分があるのだ。
―――大丈夫…落ち着け。
回避はできている。回避ができるということは、当然にカウンターできるということ。慎重にタイミングを合わせていく。
―――ここなら…。
『ダイキ選手のカウンターが火を噴くっ!速度強化をも読み切る完全無欠のカウンターだぁーっ!』
会場は大変に盛り上がっているようだが、俺は結構ギリギリ。カウンターは
しかし、ここからは俺の
ラッシュを構成する一撃いちげきを回避し、カウンターを決めていく。攻撃の密度、重厚感には圧倒されたものの、当たらなければダメージなし。
『決まったーっ!優勝は…ダイキ選手!コーングラチュレイションッ!』
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