006 奏功

俺の応援がこうそうしたのか、俊はあれよあれよと決勝戦まで駒を進めた。



「おっしゃーっ!がんばれーいっ!」



テレビに向かって絶叫。近所迷惑はなはだしかった。ごめんなさい。


ここまで来たら優勝してほしい。そしてノリノリのテンションで、俺にファミレスのハンバーグあたりをおごってもらえるとありがたい。



―――冗談はさておき…。それにしても…こんな感じなんだ。



普段はしゅんと楽しくわちゃわちゃと遊んでいたが、ルールを厳格に適用すると、こんな雰囲気になるようだ。被り物で全く見えないが、きっと真剣な表情に違いない。いつの間にか正座で視聴している。



「…お、良いカードじゃない?」



俊がキーカードを引いた。ゲームをプレイしていると、運に頼る瞬間が訪れる。


必勝法が存在していたらゲーム性が破綻してしまうわけで、こればかりは仕方がないこと。そこに戦術という要素が加わるわけなのだが、戦術を機能させるための手段がいる。これには運が絡む。いわゆる「引き」というやつ。



―――強いカードばっかり引いても無理なときがあるし。



子ども心に、切りふだ級のカードばかり詰め込んだデッキを作ったことがある。これがびっくり、大抵、機能しない。切り札のおぜん立て、あるいは補助するカードというものが必要になってくる。このあたりのバランス感覚も重要なのだ。



「おおっ!これはいけるんじゃないか?」



昨日の撮影中、俊が熱心に説明していたコンボが回り出した。相手の手札をどんどんと削っていく。手札とは自分のとり得る手段そのもの。だからこそ手札を削る戦術は、ほとんどのカードゲームで存在している。単純ながら強いのだ。


俊が優勢だと思うのだが、まだ予断を許さない。俺を含め視聴している人たちにはすべての情報が視覚化されている。対戦者が知らない、例えば相手の手札が何であるとか、そういった情報も見ることができる。だからこそ戦況が簡単に分析できるのだが、戦っているプレイヤーにしてみると、そうはいかない。最後まで気が抜けないのだ。岡目八目とはよく言ったものと感心する。



『効果でカードを2枚破壊して、攻撃。』



この攻撃が通れば、俊の勝ち。優勝。俺のハンバーグも近づく。



『ありがとうございました。』



お見事。


これは良い流れを受け取ることができた。この流れに乗って、明日の大会、がんばろうと思う。俺が欲しくてたまらないゲーム機は、予約すら再開されていない。ゲーム機のためにがんばる…まあ、そういったモティベーションもありだと思う。


そういえば、ゲームがスポーツの一つとして認識されている、そんなネット記事を見たことがある。なかには賞金が出る大会があり、ゲーマーが職業として数えられる時代らしい。



―――もし優勝できたら…俺もなんちゃってプロゲーマーくらいにはなれるんかな?



一応、数万円する賞品をゲットできるわけだから、まあ、それくらいは名乗らせてほしい。…やっぱり捕らぬたぬきの皮算用。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る