004 茜色

見上げると、空が茜色あかねいろに染まっている。



「ありがと。付き合わせて悪かった。」



ゲームのお金はすべて俺が払ったとはいえ、半日は…さすがに申し訳ない気持ちになる。そういうことを気にするような仲ではないと思うのだが、親しき中にもなんとやら。



「いいよ。あ、これから動画撮るんだけど、ちょっと手伝ってもらっても良い?」



「もちろん、もちろん。」



家に帰っても一人。明日は日曜日だし、特に用事もない。


俊は最近カードゲームの動画をアップロードしている。カードゲームということは、そう、対戦相手が必要なのだ。



「よーし、今日はこのデッキでお願いね。」



俊の特製デッキを手渡される。今日もお金にものを言わせたとんでもない構成らしい。うらやましい限りなのだが、俊にとってこれは大切な仕事道具。仕事道具にこだわりを持つ、どんな職業にも言えることだと思う。



「うわぉ、キラキラカードばっかり。」



「あはは、やっぱり光ってるほうが格好良くない?」



いわゆる「え」というやつか。



「ま、まあ。でも…お高いんでしょ?」



なんだか通販番組みたいなノリを始めてしまったが、苦笑いで流される。多分かなりの値段なのだろう。俊は、まあ、言ってしまえばお金持ち。高校生としては、という意味ではなく、一般的な意味で。


ただ、俺も動画投稿をしよう、とは正直ならない。なぜなら動画の裏側、言ってしまえば大変さを知っているから。


基本的に、10分の動画が10分で出来上がるわけではないのだ。たった10分、されど10分のなかに、とんでもない工夫とこだわりが詰め込まれている。そう、いわゆる「編集」という工程がある。コンマ数秒単位で効果音の位置を調整、字幕の大きさや色あるいはフォントの決定。こだわり続ければ終わりのない世界なのだ。



―――コンマ数秒をきわめるってところは…カウンターと似てるかな。



「よし、じゃあ撮影始めるよん。」



俊がカメラを操作する。録画中のランプが点灯し、録画開始を知らせる電子音が鳴った。



「シュンカンゲームズへようこそ!本日は…」





翌日、俺はFPSのプレイ動画を片っ端から見ていた。



「おー、すげー。」



素直に感動するレベル。対戦風景を見ているだけでも、結構楽しい。


息もつかせぬ高速バトルが展開されたと思いきや、急に持久戦がスタートする。ころころと変わる風景に、新鮮な興味がわき続ける。FPSはルールが単純。相手キャラクターの体力ゲージを0にすれば勝ち。それまでの「過程」がおもしろい。プレイヤーの作戦次第でどのようにでも変化するゲームなのだ。



―――うわ…たった1発でこんなに削られるんかい…。



戦慄せんりつすべき威力。


例えば今の対戦。プレイヤーAは大技主体で攻め込んでいる。ハイリスクハイリターンを連発。対するプレイヤーBは、連撃スタイル。攻撃を山のように積み重ねていく。着実に攻撃を当て続けたBが試合を優勢に運んでいたが、残り2秒というところで、一瞬のすきが生まれた。そこにきっちりと大技が決まり、Aの逆転勝利。


解説の方いわく、若干守りに入ってしまったらしい。わかる、その気持ちとってもよくわかる。リードしてもなおリスクをとる、なかなかできることではない。



―――まあ、俺はカウンターをひたすらだな。



それ以外に選択肢はない。



―――ここで…よし。



ひたすらカウンターのタイミングを探る。回避して、攻撃…の練習。動画を止めて、タイミングが合っているのかを確認する。この繰り返し。


さっきの大技でわかるように、一瞬の油断が敗北につながる。しかも大会は勝ち進めば、連戦となる。集中力をいかに維持するのかも大きなポイント。



「おーい、大樹だいきー?」



しゅんだ。さすがに2日連続は悪いと思い、今日は特に予定を入れなかった。



「ほいほい。俊、おはよ。どうしたん?」

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