本編

雨の音SE、フェードイン。


ト、夜中、大学生の男女が、並んで雨宿りしている。


コウスケ(以下コ)「寒い」


ト、言われたミサキは無反応。不機嫌そうに。


ミサキ(以下ミ)「…………」


コ「な、寒いな」


ト、コウスケ、さりげなく近づく。

  ミサキは、その分、離れる。


ミ「…………」


コ「……ふぅー、なんて寒さだ。おかしいだろ、今年の夏は記録的な猛暑。なら、冬     だって相応に、温かく収まってくれないと嘘ってもんだ。そう思わないか?」


ミ「(もっとマシなこと言え、という空咳)」


コ「そもそも、どうして雨なんだ? せめて雪なら、季節感があって得だろうに。だからって、ひょうやミゾレは、勘弁だけどさ」


コ「ところで映画の〝十戒〟って観たことある? でっかい雹の降るシーンがあるん  だけど、実は、そこで使われてるのってポップコーンなんだぜ!」


ミ「(うんざりしている溜め息)」


  (間)


コ「……雨、やまないな」


ミ「…………」


コ「もうすぐ一時だ。駅前にも、さすがに誰もいなくなったか」


ミ「(さらに、うんざりしたように溜息を吐く)」


コ「終電……無くなっちゃったね」


ミ「なんなの、さっきから?」


コ「……終電、無くなっちゃったよね」


ミ「歩いて帰れば?」


コ「二時間かけて?」


ミ「じゃタクシー」


コ「諭吉が何人も犠牲に」


ミ「野宿ね」


コ「この12月も後半に!? 凍死するよ! 何で? 君の借りてるアパートが徒歩5分圏内にあるじゃない!」


ミ「なにそれキモイ。下心ミエミエなんですけど」


コ「ハッ! やれやれ、君は男を性欲お化けとでも考えているのか?」


ミ「へぇ、違うの?」


コ「もちろん」


ミ「指摘したことあったよね。アンタがキメ顔で笑う時は――」


コ「嘘ついてる時。そうだよ、くそっ。でも、しょうがないだろ。オレ大学2年だぜ!」


ミ「へぇー、その理屈だと、あたしも嘘つきってこと?」


コ「性欲の方だよ! でも、安心していい。さすがに、この空気でエロに走れるほど、本能だけで生きてないから」


ミ「どうだか。そもそも、あたしがアンタを家に上げなきゃならない理由は?」


コ「俺、彼氏。彼氏だよ?」


ミ「100年くらい前はね」


コ「なぁ、まだ怒ってるのかよ?」


ミ「見ての通りだけど」


コ「だから、アオイとは何も無いってば!」


ミ「……1000回くらい聞いた。でも、信じない」


コ「だから――はぁ……わかったよ。でも、だからって俺をこのまま置き去りにするのか? ホントに死んじまうぞ」


ミ「悪いけど、お葬式の日は予定が入ってるから」


コ「あのねぇ!」


ミ「どうしてもってんなら、アオイのとこに行けばいいでしょ。近いわよ、こっから」


ト、ミサキ、傘を開こうとするアドリブ。

  しかしコウスケが電話を掛けようとするので、手を止める。


ミ「……なにしてんの? スマホなんか出して」


コ「なにって、こんな時間だし、誰かを頼るにも起きてるかどうか――」


ミ「サイッテー! ホントに行くなんて、信じられない! コウスケの馬鹿!」


ト、ミサキ、叫んで走り出す。


コ「ちょっ……! なんなんだよ! 待てよ、ミサキ!」


ト、追いかけて走り出すコウスケ。


タイトルコール


〝ポップコーン降って、世界、固まる〟


ト、ドタドタという足音。

  コウスケとミサキが、アパートに到着。ドアを開けて玄関に。

  部屋は真っ暗。部屋の中では、神1がタオルの匂いを嗅いでいる。

  神1のフンフンいう息遣いが響いているが、2人は、まだ気づかない。


ミ「ちょっと! なんでついて来るのよ!」


コ「ここまで来て、そりゃないよ!」


ミ「っあー、もう! 入って来るな、濡れるじゃない!」


コ「お前が傘に入れてくれないからだろ? ほら、タオル貸してタオル!」


ミ「わかったから押すな! あたしに触れるな!」


コ「狭いんだよ、この玄関!」


ミ「ほっといて! えぇと、電気、電気……」


ト、部屋に電気が点く。

  神1が、部屋の真ん中でスポーツタオルを顔に押し付け、鼻を鳴らしている。


神1(以下1)「フンフンフン……あっ」


ミ「み、見たこともない怪しいオッサンが……」


コ「し、少女趣味に飾られたミサキの部屋の中心で……」


ミ「あ、アドダスのスポーツタオルに……」


コ「か、顔を押し付けている……?」


1「ども、お邪魔してます」


(間)


二人「ぎゃぁあああああああ変態だ!」


コ「ひぇええええっ!?」

ミ「うぉおおおぉっ、跳び蹴りぃぃ――ッ!!」


ト、2人の悲鳴と雄たけびが重なる。

 コウスケはドン引きして後ろに跳び、

 ミサキは神1に迫って、飛び蹴りを見舞う。


ト、キックがヒット。神1、部屋の奥に吹っ飛ぶアドリブ。


ミ「あっ、あたしのタオル! ひぇええ、やだ、湿ってるうぅ!?」


ト、部屋のドアが開き、神2が入ってくる。


神2(以下2)「あ、戻られたのですね」


コ「うぉあああ、もう一人いた!?」


2「あらまぁ、相棒が倒れている。ちょっと、大丈夫ですか」


1「大丈夫どころか! ピチピチ女子大生の汗の香りで、500年は若返った。最高だよ!」


2「あ、はい、そこじゃなくて」


ミ「ききききき貴様らぁ! いま何時だと思ってんのよ! ていうか、どうやって入ったの? 玄関の鍵は掛けてたはずだし、窓? 掃除したばっかなのに、変な靴跡とか残してないでしょうね! い、いえ、そんなことより、うら若き乙女の私室に無断で上がり込んだばかりか、あたしのタオ、タタタタタタタタオタオタオ……」


コ「ミサキ、落ち着け」


1「そうだ、興奮しすぎは健康に悪い」


2「深呼吸なさい。腹式呼吸です」


ミ「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……」


(間)


ミ「……ふぅ」


コ「大丈夫そうだな」


ミ「なわけないでしょ!? 何でアンタは落ち着いてんのよ!」


コ「いや、混乱するミサキを見てたら、かえって――」


ト、ミサキ、コウスケにビンタする。


コ「――何すんだ!」


ミ「余裕ぶってムカつく」


コ「だからって殴るか!? 本能のまま生きてんなぁ、おい!」


1「仲いいのね、お前さんたち」


ミ・コ「どこが!」


2「まぁ喧嘩するほど、っていいますしね」


ミ「知った風に言わないで! か弱い乙女の私物をクンカクンカする変態が!」


コ「か弱い……乙女?」


ト、ミサキ、コウスケに2度目のビンタ


コ「――2度も、ぶったな!」


ミ「警察よんで。今すぐ!」


コ「ここで頼む? 俺に?」


ミ「さっさとしてよ! 何のためのコウスケなわけ?」


コ「人を警察通報機みたいに言うな!」


ト、言いつつもコウスケはスマホを出してダイヤル、耳へ。


ミ「ふん、これまでのようね、犯罪者ども! この部屋に忍び込んだのが運の尽きよ、己の犯した罪を、悔い改める用意はいい?」


1「まぁ待て。その前に、私たちは変態でもなければ犯罪者でもない」


2「変態については否定できないでしょう」


1「変態だそうです。しかして犯罪者ではないのだよ。なにしろ私たちは――神なのだから」


ミ「……は?」


2「そうなんです。私たち2人で、恋愛の神様をやっております」


ミ「はあぁ……?」


1「変態〝神〟士と呼んでくれてもいいぞ、神だけに」


ミ「馬鹿なんじゃないの」


1「だが神だ」


2「そこは否定してほしかった……いや、無理か」


コ「あれ、変だな……ぜんぜん繋がんないんだけど」


ミ「ちっ、使えないわね……あれ、っていうか圏外になってんじゃない! なんでよ、この大事な時に!」


1「ふはは、見たか! 神たる我ら、この程度のことは造作も無い」


コ「アンタらの仕業だっていうのか?」


2「ええ、そうです。そもそもホラ、こんなに騒いでも、近所の誰も文句を言いにいらっしゃらないでしょう。こうなることを見越して、先ほど、簡単な結界を張って回っていたんです。こうすれば、何の気兼ねも無く、ゆっくり話し合うことが出来ると思いまして」


コ「はぁ……気が利いてますね」


ミ「……フッ、こうなったら私自ら、奴らに罪を償わせるほかないようね」


コ「お、おい、どうする気だよ?」


ミ「軽くシメて、生まれたことを後悔させるわ」


コ「流石か弱い乙女様だぜ……!」


1「こらこら、落ち着きたまえ。その勇気は買うが、小娘のパンチが神たる我らに届くかな」


ミ「それ遺言? オッケーわかった、それじゃ――うぉらぁああああああっ!」


ト、ミサキ、助走をつけて殴りかかろうとする。

  だが、神1が指を立てれば、その動きがピタリと止まる。


ミ「う、うそ……? 指も触れられてないのに……ッ」


コ「え? え? 非常口のポーズで固まって、何やってんの?」


ミ「う、動けないのよ! なんで?」


2「神通力というものです。神であれば、ウィンク同然に出来る小技でして」


コ「え、すごい、俺ムリっす、ウィンク」


1「ひひひっ、さぁて、どうしてくれようか。セクシーポーズでも取らせてやるか?」


2「こらこら、パワハラは、おやめなさいな」


1「んー、お前が言うなら。ほい、解除」


ト、息も絶え絶えに崩れ落ちるミサキ。


2「少々、強引になってしまい、申し訳ございません。ですが、これで信じていただけましたか?」


ミ「くっ……信じるほかないようね……」


コ「え、そうなの?」


ミ「当たり前でしょ! 今の見てなかったの?」


コ「見てたからこその疑問なんだけど……」


2「つまり、貴方の懸念は?」


コ「あんたら3人で、俺のこと担いでるんじゃないの?」


1「ほいっ」


ト、神1がコウスケに手をかざす。

  その瞬間、ノリノリのダンスミュージックに合わせ、コウスケの体が動き出す。


ミ「こ、これは!? コウスケが急に、マイケル・ジャクソンばりのキレッキレダンスを!」


2「これも神の力です。あらゆる生き物に、思いのままの行動を取らせることが出来る」


ミ「そしてセクシーポーズでフィニッシュ!? や、やだ、色っぽい……」


1「と、いうわけだが。これでも信じないつもりかな?」


コ「いや、納得したよ。お見それしました」


ミ「凄いわ……脚が、あんなに高く上がって。あれがコウスケの潜在能力なの?」


2「いえ、残念ながら、術を解けば無理を強いた痛みが」


ト、神通力が解けた瞬間、床をのたうち回るコウスケ。


コ「ぐぁあああああああ――――ッ!?」


ミ「コウスケ――ッ!?」


2「というわけで、天界にはランダム形式で、我々が介入すべき恋愛案件が舞い込んできます。その対象に、この度、貴方がた2人が選ばれたという次第で」


コ「どういうわけだよ! 人の体をズタズタにするのが、恋愛の神の仕事なのか!?」


1「恋愛とは、奥深いものなのだ」


コ「複雑怪奇すぎるだろ! そもそも、なんで神様が人間の恋愛に首を突っ込む!?」


2「我々は、人々の望みを受けて力を得ます。私たちで言えば、〝相手に思いが届きますように〟だとか〝この人と、ずっと一緒にいられますように〟という具合ですね。そして、そういった祈りを発する対象が増えることこそ、天界存続の鍵。つまり人間の生殖は、神にとって最も注視すべき事柄なのです」


ミ「ぶっ!? ちょ、や、やだ、生殖って――」


コ「ゥオッホン! もっと違う表現はないのか」


2「それで、この度、貴方がたの下半身事情を改善しようと」


コ「最低な言い換えをしやがって!!」


1「それで? いつ頃からヤってないんだ?」


ミ「な、なんのことですかしらー? あたしぃー、そんな軽い女じゃないしぃー? そういうことは、結婚するまで考えられないっていうかぁー」


1「ま、こっちの記録に、直近は144時間22分前って出てるんだけどな」


コ「おいぃぃ筒抜けなの!? どういうこと!? なんで!?」


2「ですから申しました通り、神々は皆、注視しているわけでございまして」


コ「覗きじゃん、悪趣味すぎるだろ! っていうか、なら、なんでワザワザ訊いたんだよ!?」


1「ふふっ、羞恥に悶える姿が、たまらんから……ぐふふっ」


コ「てめぇ、あんまりフザケてると――」


ミ「モノ千切るぞゴルァ」


コ「ぶん殴――ぁ、うん、まぁ、そんな感じ……」


2「ゴホン。まぁ行為のペースと密度から言って、良好な関係を築いていたことは明白ですね。それが、およそ1週間前、唐突に状態の悪化が見られた。何故ですか?」


ミ「こいつが浮気したのよ」


コ「ちょっ」


2「うわ最低、乙女の純情を踏みにじる不逞の輩」


1「女の敵。処す、処す?」


コ「いや、やってないよ! もう何度も言ってるけど!!」


1「つまり、こういうことか。やることヤッた、でも心が通ってないからセーフ?」


コ「違うッつーの! 心も体も、なんもかんも無罪です!!」


1「んー、たしかにカウントは増えてない。でも、たしかコレ、先っちょだけだと、未遂と見なされて変動しなかったような」


コ「おめー! 俺たちの下半身事情を改善しに来たんじゃないのか!?」


2「それはそれとして、嘘に加担することもしません。人の心を欺き、弄ぶような外道畜生は、すぐさま地獄へ叩き落としますので、お覚悟を」


コ「覚悟って……だーから! 俺は浮気なんてしてないって! たしかに1週間前、アオイと2人で街に出たけど、それは――」


1「アオイ? このミサキちゃん以外の女の子か?」


コ「そうだよ。同じゼミの研究仲間で――」


2「その女の子と? お出かけ? 2人きりで?」


コ「そうさ! それで、ちょっと買い物してカラオケで休憩した後に飯を食っただけで」


ト、神の二人、食い気味に攻撃し、コウスケを吹っ飛ばす。


1・2「ジャァアアアアッジメントォオオオ!!」


コ「ぐほぅえええぇっ!?」


2「世間ではそれを」


1「デートと呼びまぁす」


ミ「あばよベイビー」


コ「ちょちょちょちょちょ! 待って待って! 弁解させてくれって!!」


ミ「弁解ですって? いったい何を弁解するっていうの? あたし、知ってるんだからね。あんたがアオイに笑いかけられて、デレデレ鼻の下を伸ばしてたこと!

 『男の子と歩くって、なんか落ち着かないなァ』

 なんて照れてるのを見て、

 『お互い様だよ。しかもアオイは可愛いし。俺じゃ釣り合いが取れないもんな』

 『そんなことないよ! うふふ、今の私たち、周りから恋人同士みたいに見えてるのかなぁー』……」


2「キィェァアアアアアアッ!! なんですかぁ、そのベッタベタなやり取りはぁ!?」


1「胸やけがするぅ! マジか、ほんまもんのタラシ種馬コシ振り毎晩!?」


コ「ストップ、ストップ! ただのリップサービスだって!!」


ミ「リップ・サービス……唇の奉仕、すなわち、キス」


コ「いや、それは、いくらなんでも強引でしょ」


2「お待ちなさい、カラオケに行ったのでしたね? 若き男女が一組、狭い密室に、2人きり……導き出される結論は」


ミ「なんてこと……! やっぱり、壁越しにギシギシいってたのは、そういう」


コ「おいやめろ! 普通にカラオケのライブ映像を観ながら踊ってただけだ!

っていうか、ギシギシ? え、なに、お前、まさか隣にいたの?」


ミ「ええ、いたわ。カラオケだけじゃない。常にアンタ達を監視していた。目のふちの皺、マフラーについたゴミ、コートのホツレまで子細に見て取っていたのよ」


コ「き、気づかなかった……」


1「いや、気づけよ」


2「ともあれ、これでハッキリしました。仕方がありません、不実の種を世に残しては神の名折れ……いざ罪びとの魂を拘束し、断罪の王国へと連行せん……!」


ト、神2、すごい術の発動準備。

  必殺技の溜めっぽい、仰々しい効果音。


コ「ひぇっ!? タンマ、えっ、マジ!? おいミサキ、待って、止めさせてくれ! 俺が本当に好きなのは、お前だけなんだ! お前を不安にさせたなら、謝る! だからちゃんと、しっかり二人で話し合おう……!」


1「なんて、清々しいまでにクズいセリフ……」


2「そなたは煉獄に囚われ、永劫の炎に炙られ続ける。肺腑はおろか骨の芯まで焼き上げてもなお、魂は苦痛に囚われる羽目になります。そうして絶叫と嘆願を1000年も繰り返したなら、ようやく、罪を償うことが出来るでしょう」


コ「彼女以外の女の子と出掛けるのって、それほどの罪なの!?」


1「セクハラと同じ。やってる本人は自覚ないんだよなぁ」


2「天よ渦巻け、地よ吠えよ! 天上人にのみ許されし至高の光で以て、悪鬼羅刹の穢れを払い、いざ、地上に清きことわりを敷く――」


ミ「ち、ちょっと待って!!」


1「お嬢さん? どうして――」


ミ「ま、まぁ落ち着いてちょうだい。さすがに大げさすぎるっていうか……アハハ」


コ「み、ミサキ、お前……」


ミ「たしかにコイツは糞野郎だし、両目を潰して舌を抜き、はらわたを引きずり出してやりたいと思うけど……」


コ「み、ミサキさぁん……」


ミ「でも、騙されちゃったあたしも悪いわけで。いいわよ、これも勉強と思うわ。これっきり縁を切るから、それで、もうオシマイにする」


ト、神2が術の発動を停止。


2「……ふむ、さようですか。たしかに、神たる我らがしゃしゃり出る幕でもなかったかもしれませんね。いや、つい感情的になってしまった。1000の年月を経ようとも、どうもカッとなってしまいがちなのは、私の悪い癖でしょうか」


コ「俺、カッとなったって理由で地獄に落とされかけたの?」


ミ「とにかく、そういうことだから。貴方には、ほとほと愛想が尽きたわ。今すぐ出てって、二度と顔を見せないで。今まで、ありがとう。それじゃ、さよなら」


コ「お、おい待てよ」


1「はい、帰り道は、こちらですよー」


コ「…………」


 ト、無言の間。

 出口に、ゆっくりと向かうコウスケ。


コ「い、いや、待て! やっぱり、こんなの納得できないぞ!?」


ミ「しつこいわね。顎、砕くわよ」


コ「おお、それでお前の気が済むなら、いいよ! 砕けた顎で、ミサキへの愛を語ってやる!」


ミ「えっ、ぁぇっ?」


コ「そもそもだな! こんな一方的な尋問、納得できるかって! あんたら神様なんだろ!? もうちょっと事実確認とかして、公平にジャッジしてくれよ!!」


1「うーん、それ言われちゃうとなぁ」


2「ぐうの音も出ませんね」


ミ「で、でも、事実確認なんて、どうするのよ? 今から聞き込みってわけにも――」


1「そうだなぁ、見に行くか?」


ミ「へっ? 見に行くって」


2「タイム・スリップです。それで直接、浮気現場を確かめようじゃありませんか」


ミ「そ、そんなこと出来るの?」


2「神、ですから。むろん可能ですとも、ええ」


コ「最初からやれよ!」


1「面倒くさくて。それに面倒くさいし、面倒だし、あと、なにより面倒くさい」


コ「面倒くさいだけじゃねーかよ!! ソースも調べず目の前の一面的な情報に飛びついて好き勝手に叩くって、あんたら、本当に神様なのか!?」


2「まぁマジレスすると、過去改変が起こる可能性があり、慎重にならないと」


コ「マジレスすると、さっきのが慎重な対応だったんですかァ!?」


ミ「それで、やっぱり浮気してた時は、どうするの?」


コ「してないよ。もし、やってたら、木の下に埋めてもらって構わないぜ」


ミ「ベビーフードしか食べられなくしてもいい?」


コ「ロボコップかよ! 頭と内臓だけになるの、俺!? ぃ、いいよ、煮るなり焼くなり、好きにせんかい」


1「準備は済んだか? それじゃ、タイム・ジャ~ンプ」


コ「そんな雑な――うわぁああっ!?」


ト、タイム・トリップ空間に呑み込まれる。

  4人、浮遊しながら、時間の流れの中を移動。


2「ようこそ、時空の狭間へ。ここを通り抜けることで、過去へ転移することが可能です」


ミ「うっ、グルグルして、気持ち悪い……」


コ「ぉ、お前、乗り物に弱いもんな……ほら、こっち来て、掴まってな」


ミ「うん……ありがとう……」


コ「これ、どれくらいで着くんだ?」


2「数十秒から、数分ですね。任意の時間軸が重なった段階で、現実へ同期すれば――ほら。もう着いたようです」


ト、タイムトリップ空間を抜け、真夏の公園に着地する四人。


コ「うっ!? なんだ、これメチャクチャ暑いぞ!?」


1「あっ、ヤベ、1週間じゃなくて、3ヵ月も戻っちゃった。テヘペロ」


ミ「さ、さっきまで寒かったのに……急転直下過ぎて……ぅ、頭が」


コ「ぉ、おいおい、早く戻ってくれ。環境の違いについていけない」


1「やれやれ、しょうがねぇ――む? 待て、向こうから歩いて来る2人組は……」


ト、4人の前方で、喧嘩する前のコウスケとミサキが手つなぎデートしている。


過去コ「あっはははは……」


過去ミ「うっふふふふ……」


2「ラブラブ真っ盛りな二人! 真夏もぶっ飛ぶアツアツ加減ですね」


過去ミ「あっつぅ~い! コウスケぇ、あたし、溶けちゃいそう……2人でアイス、わけっこして食べましょう? ねぇーえ、マイダーリン? アーン……してあげるから……」


ミ「うわぁああああああああああああ!?」


ト、ミサキ、発狂気味でコウスケの頭を叩きまくる。


コ「いだだだだだ! こら、やめろミサキ! 照れ隠しに俺の頭を叩くんじゃ――」


過去コ「おいおいスウィートハニー、そんなことしちまっていいのか? まるで親鳥が包容力の翼を広げ、餌を与えるみたいにアーン、だと? それこそ炎天下のアイスみたいに、お前の腕の中でトロけちまうこと請け合いだぜ……」


ト、自ら頭を差し出し、殴られるコウスケ。


コ「ぐぉおおおおおおおおっぶん殴れェ! 俺の意識を刈り取ってくれえええええッ!!」


1「はい、ジャ~ンプ」


ト、再びタイム・トリップ空間へ。


1「いやぁ~甘々だったな。イギリスのミルクチョコレートみたいに甘々だった」


2「ふぅ、こっちまで恥ずかしくなってしまいましたよ。はぁ、あついあつい」


コ「お前らぁ! 今の、わざとじゃないだろうな!?」


1「いえいえ~偶然ですお、偶然ですお」


ミ「つまりワザとね!? ふっざけんじゃないわよ!!」


1「しかし、この後、あの真夏のバーニングから一転、氷点下の冷え込みへと至るわけだ」


2「いったい、なにが起きたのか? 詳細は、タイム・スリップで検索」


コ「遊んでるだろ!! ぅっ、光が――」


ト、目の前が開け、雑踏に降り立つ四人。


ミ「ひゃっ、寒い……! こ、こっちもダメ、うぅ、歯の根が合わないわ」


1「そう思って、ここにコートを用意しておいた。こいつを着て寒さをしのぐがいい。ついでに服も乾かしてやろう」


コ「あ、あぁ、どうも。助かるよ」


2「はい。こちらはマスクとサングラス。ニット帽も、被ってください」


ミ「ず、随分な重装備だけど、どうして?」


2「ですから、過去改変の可能性です。同じ人物が同時に2人いるだけでも問題なのに、それが、鉢合わせなどしてごらんなさい」


コ「えっ。じゃあ、姿を周りに見えなくしたりとか、そういうことは?」


2「そんな都合のいいことができるものですか。常識的に考えてください」


コ「え、えぇー……」


1「しかし、賑やかだな? まさに都会……どこを見ても人、人、人だ」


ミ「あっ、あそこに、あたしがいる」


1「えっ、うそ、どこ?」


ミ「ほら、白いダウンコートを着て……あそこ! いま、ビル下の植木の前よ!!」


1「あっ、判った! アレだな!?」


2「……あの肩に担いでいる、大きなケースは、なんですか?」


ミ「天体望遠鏡」


2「天体望遠鏡」


ミ「天体観測サークルから拝借したの。今は、ビルの間を縫ってコウスケたちを観察できる位置を、探しているところね」


1「……重くないのか?」


ミ「重いに決まってるじゃない。翌日は筋肉痛だったわ」


2「どう見ても、アレ携帯用じゃないんですが……まぁ、なるほど。アレを使って、様子を観測してたんですね。でも、喋っていた内容などは、どうやって?」


ミ「読唇術ですけど」


2「読唇術」


ミ「えっ、彼氏が誰と何を話してるかって、知りたくなるでしょ? かといって、いちいち問い質すのも重い女みたいで嫌だし……じゃあ唇の動きを読む術を身につけざるを得なくない?」


1「えぇ……なにコイツ、やべー奴じゃん……」


コ「一途なんだ……へへっ、可愛いだろ?」


1「あっ、さてはどっちも変人ですね」


2「ま、まぁ、いいでしょう。ということは、彼女の対角線上のどこかに、コウスケ氏がいることになりますね」


1「さっそく探しに行こう。おい、お前、今ごろは、どこにいた?」


コ「え、えぇっと、たしか――」


ミ「こっちよ。ついて来て」


2「な、なんら迷いもなく駆けていかれて――」


1「お前、大変だったんだな。そりゃ浮気くらいしたくなるわ」


コ「しつこいな、あんたらも。行こう、ミサキを見失っちまう」


ト、4人、走って移動する。


ミ「……いたわ。あそこ」


1「ほんとだ。ほほぅ……あれがアオイちゃんか。可愛いじゃないか」


2「小柄ですね。色白の童顔で、ちょっと、ふっくら……どちらかといえばミサキさんとは真逆のタイプという印象……」


ミ「ふん、悪かったわね。どうせ、あたしなんて、ガサツで背高くて色黒で、女の子っぽくないですーだ」


コ「なに言ってるんだ。俺はミサキの外見だけに惚れたわけじゃないんだぜ。かっこいいのに、部屋はピンクのファンシー系で纏まって、ぬいぐるみだってたくさんある。そういうギャップこそ、お前の魅力だって、なんで解らないんだよ?」


ミ「こ、コウスケ……」


1「ほほう……アオイちゃん、いじらしくコートの袖の後ろを摘まんで……」


2「あっ、コウスケ氏が懐を空けましたね。そして密着……腕を、組む」


ミ「……まぁ、距離が近い」


コ「いや、この人波だし、はぐれないように――解った、たしかに近い。よし殴れ!」


ミ「うらぁあっ!」


コ「躊躇ないっ!」


ト、コウスケの頬をビンタするミサキ。


ト、時間が経過。

  しばらく尾行した末、4人は、デパートの中にいる。


1「んん~楽しそうなショッピングタイムですねぇ。あれを見て、2人を恋人同士でないと見る人間が、果たしてどれだけいることやら?」


コ「痛い、いたいっ。ミサキ、無言のボディブローやめて。それ内臓に来るヤツ。着実に、ダメージ溜まるヤツだから」


2「とはいえ、先ほどよりは距離を感じますよ。もう腕を組んでもいませんし」


1「ひひひっ、そりゃあもう、お前。クールタイムってヤツだよ。なにしろ、この後は肌と肌を重ね合わせることになる。それを思えば、ちょっとくらい離れときたいと思うもんさ」


コ「ちょっと、適当なこと言わないでくれよ。俺はな――」


ミ「いえ、あたしは知っているわ。あの人の言うとおりだって」


コ「え……ミサキ……?」


ミ「あたし、見ていたもの。一部始終を。ここで、アンタたちが、抱き合うところ」


1「あっ、ホントだ! 向こうの柱の陰に、嬢ちゃんがいる! ひへへへっ、こりゃあ、楽しくなってきたじゃないか!」


2「ん? こんなデパートの売り場の真ん中で抱き合ったんですか? 遮蔽物も無い、周りには多くの人がいるのに?」


ミ「ええ。こけたのを支えた、とかでもなかった。向かい合った体勢から、しっかりと正面、抱きしめ合ったんだから」


コ「うっ、そ、それは……」


2「え、ホントにやったんですか? どうして? そんな、理性を溶かすほどアオイちゃんに熱を上げてるようにも見えませんが」


コ「た、たしかにミサキの言うとおりだ。で、でも、聞いてくれよ。まさか見られてたとは知らなくて黙ってたんだが、俺にだって何が何だか――」


ミ「ううっ、イヤ、イヤ……聞きたくない。やっぱり、無理。それを見て、あたしが、どんな気持ちだったと思うの? すごく、苦しくて……息も出来ないくらい……(泣き出す)

 せめて包み隠さず話してくれれば、全身打撲くらいで許してあげた……でも、誤魔化してやり過ごそうなんて……そんなの、あまりにもバカにしてるわ……死ね……!」


コ「み、ミサキ……ごめん、怖いよ……」


ミ「あぁ……人間の目って、どうして2つもあるのかしら。肺も、腎臓も、(ピー)だって。いえ、そもそも脳だって右脳と左脳に分かれてるわ……それって、つまり、片方潰しても、大丈夫なようにじゃないの……? きっとそうね……」


コ「み、ミサキさん? ちょ、手首を押さえて拘束しようとするのやめてください。ねぇ、ちょっと。それは、さすがに洒落にならな――」


ミ「あぁ……あと数秒で、2人が抱き合うわ。そんな場面を再び見せられるくらいなら……アンタの両目を、ここで潰す」


コ「ぉ、おかしくない? それ、潰す対象が変じゃないか? そ、そもそも2つある云々の考察は、どこへ? え、マジでやるの。え、ちょ、ちょ、待って待って待って!」


1「ほら、行け! なにやってる小僧! こう、ガバッと、ムチューッと!!」


2「……ほんとに、やるんですか? そんな気配、ぜんぜん見えませんけど……」


ミ「いえ、やるわ! ほら、あと5秒……ふうぅ! もう我慢の限界……コウスケ……!」


コ「ひいぃぃっ!?」


2「いや、絶対やりませんって。どう見たって、これ、そういう雰囲気じゃ」


1「えぇいっ、じれったい! 俺が手伝ってやる、神通力っ!!」


ト、神1が神通力を発動し、過去コウスケとアオイを抱き合わせる。


1「ハッハーッ! 見たかね、諸君!? まさに今! 我々の前には浮気現場が展開している! ええっ!? これを、いかに説明するんだね小僧!?」


コ「…………」


ミ「…………」


2「…………」


1「ん? なんだ、どうした?」


コ「いや、お前、いま何した?」


1「いや、単に、この後に起こるべきことの後押しを――えっ、なに、この白けた雰囲気」


2「過去、改変……」


1「えっ?」


2「過去への介入による、事象の変化……タイム・スリップにおける禁忌……」


1「おっ、あっ?」


ミ「つまり、あたしが浮気の決定的証拠と見た光景は、アンタが創り出したもので」


コ「俺たちの仲は、そんな介入行為に引き裂かれた……?」


ト、離れた場所で、慌ててアオイとの抱擁を解く過去コウスケ。


過去コ「い、いや、大丈夫だ。はは、び、ビックリしたな……。ど、どうしちゃったんだろ。と、ともかく今日は、ありがとうな、アオイ。君のおかげで、ミサキへの良い誕生日プレゼントが買えたよ! アオイが彼氏に何か贈る時も、俺、頑張って協力するからな」


1「あ、あぁ……そういう……」


コ「言っただろ。俺の心は、ミサキにしかないんだって」


ミ「ということは……うふふ。全ての元凶は、神様? アンタってことで、いいのかしらぁ?」


ト、ミサキ、凶暴な笑みを浮かべ、拳の関節を鳴らしながら神1に歩み寄る。


1「ふっ、人間風情が、不敬だぞ! 神通力っ! ……あれ、効かない?」


2「あ、私が打ち消しています。どうぞ、思う存分、やっちゃってください」


ミ「感謝感激雨霰ぇ……ふっふふふ……!」


ト、神1の眼前に仁王立ちになるミサキ。

  神1のセリフの途中で、神1の顔面を片手で鷲掴みにし、引きずっていく。


1「あっ、ちょ、待って。ほんの出来心だったんです。つい興が乗っちゃって……うぐぅ!? あ、アイアンクローやめてぇ……! そ、そこ、倉庫だよ。ほら、スタッフオンリーってプレートが。入っちゃダメ――あっ、ごめんなさい、ホント。あっあっあっ」


ト、ミサキ、ドアを開け、神1を連れ込む。

  キイィー……バタン、とドアが閉まる。


 遅れて、ボコボコにしている効果音。


1「あ……っ、あぁああああ―――――ッ!?」


ト、場面変わって、ミサキの部屋。


2「この度は、ウチの者が、たいへんご迷惑をおかけいたしました。心から謝罪いたします。本当に、申し訳ありませんでした」


コ「あっはっは。まぁ、いいっすよ。なんだかんだで、丸く収まりましたし!」


2「そ、そうですね。目を潰されなくて、よかったです……」


コ「はい。おかげで、世界を目に出来る幸せを知りました。うひょーっ、最高だぜ世界!!」


ミ「そ、それで、コウスケ? あの、さっきの話なんだけど……」


コ「ああ、うん。待ってて。いま……」


ト、コウスケ、荷物を漁り、ミサキあてのプレゼントを差し出す。


コ「クリスマス、お前の誕生日だ。それで……お祝いしたい、って思って。アオイに手伝ってもらったんだよ。あいつ、周りには隠してるけど、他校に彼氏がいて……それを偶然に知っちゃってから、何回か相談に乗ってたんだ、俺。そんで初めて俺から助けを求めたら、今までのお礼だっつって張り切ってくれて……」


ミ「そ、そうなんだ……」


コ「だから、予定よりは早いんだけどさ。これ渡して、誤解を解いて、そんで仲直りしたいって、思ってたんだ。でも、例え、そんな形でだって、他の女の子と2人きりで出かけるべきじゃなかったよな。せめて、一言、伝えるべきだった。不安にさせちゃって、本当に悪かったと思う。ごめん」


ミ「……あたし、それ受け取れない」


コ「……ミサキ?」


ミ「そんな資格ないわ。あたし、アンタにたくさん、酷いことしたもの。たくさんブッたし、暴言も吐いて……それも、全部あたしの勘違いで……あはは、幻滅したでしょ? こんな暴力女なんか、願い下げよね? ううん、仕方ないわ。だから、もしウンザリしたなら、正直に言って」


コ「……ミサキ!」


ト、コウスケ、ミサキを強く抱きしめる。


コ「バカなこと言うんじゃない。そんなことで嫌いになるなら、そもそも、お前と付き合ってなんか、いないって」


ミ「無理しなくっていいのよ」


コ「無理なもんか。お前がいいんだ。ガサツで、口が悪くて、すぐに手が出て……そうやって、心のもろさを必死に隠してるお前が可愛いんだ。本当は寂しがり屋で、たくさん甘えたいくせに、強がって否定するお前が、愛おしいんだ。それでもやっぱり優しくて、俺がヤバい時には必ず助けに来てくれるお前が頼もしくて……大好きなんだ」


ミ「コウ、スケ……」


コ「お前がいなきゃダメなんだよ、俺。だから……傷つけて悪かった。情けなくて、鈍感で、たくさん怒らせちまう俺だけど……許してくれ。ずっと、お前と一緒にいたいんだ……」


ト、コウスケを抱きしめ返すミサキ。


ミ「あ……あ、あたしも、アンタがいなくちゃダメなの。ごめん、コウスケ。本当にゴメンなさい……! 大好きよ……お願いだから、ずっとあたしの傍にいて……」


1「うぅん、素晴らしい。まさに大団円、だ。本当に良かったなァ……」


2「ええ、まったく。お前が言わなきゃ、なおのこと……」


コ「……神様がた。あんたらには、いろいろ言いたいことがある。文句も、それと……ほんのちょっとの、感謝とな」


2「恐れ入ります。さて……我々は、そろそろお暇を。どうぞ、お幸せに」


コ「ああ、どうも。覗くなよ」


1「またな、小僧」


コ「そいつは勘弁。じゃーな」


ト、神2人、消える。


コ「ふぅ……行っちゃった。頭のおかしくなりそうな体験だったぜ。なぁ?」


ミ「うん……でも、良かった。もしかしたら、このまま終わりかも、って思ってたから」


コ「はは、終わりにするわけない。だって、約束したじゃないか」


ミ「約束って?」


コ「付き合う前、お前は、誕生日がクリスマスなのが嫌だって言った。イベントが重なって、一緒くたにされちゃうのが詰まらないって。だから俺は言ったんだ『俺が、一生、キリストのなんかより2倍も3倍も、ミサキの誕生を祝ってやる』って。それで、お前にオーケーもらったんだぜ?」


ミ「……そうだった。ねぇ、ひとつだけワガママ言ってもいい?」


コ「どうぞ、言ってくれ」


ミ「やっぱり、どういう理由があったって、アンタが他の女の子と二人になるのは嫌。他の女の子と私へのプレゼントを選ぶなんて、もっとイヤ。それならプレゼントは要らないから、ずっと、あたしと一緒にいてよ」


コ「……うん、そうする。じゃあ、コレ、渡さないでおく方が、いいか?」


ミ「ううん、ちょうだい。それとこれとは、別だもん。誰かが自分のために選んでくれた物って、理屈抜きで嬉しいものなの。……今度、アオイにも、お礼を言わなくっちゃ」


コ「そうだな、それがいい」


ミ「はーっ、なんだか落ち着いたら、お腹が空いちゃった」


コ「なんか食べようか。何がある?」


ミ「実は、ポップコーンの種を買ってあるんだ。それ食べない?」


コ「いいな。じゃ、台所借りるよ」


ミ「ね、プレゼント開けていい?」


コ「もちろん」


ト、コウスケ、台所へ。

  ミサキはプレゼントの封を解く。


ミ「わ……これ、素敵……!」


ト、神2人が登場。


1「あーいたた。えらい目に遭ったぜ、まったく」


2「自業自得でしょう。やり過ぎですよ、貴方」


1「いーんだよ。より大きな苦難を乗り越えてこそ、絆は深まるものなんだ。それがあって初めて、俺たちの仕事は果たせるってもんさ」


2「だから、こんな芝居をして、汚れ役まで引き受けるんですか? そこまで体を張るほど、人間なんて、いいものですかね」


1「あったりまえだろ? でなきゃ、こんな仕事、やってられるかって。ふふ、本当に人間ってのは、可愛いなぁ」


2「ふぅ……いつか、私にも理解できる日が来るのでしょうかね?」


1「おう、もう1000年も生きりゃあ、きっとな」


2「へぇ。ま、期待しないで待ちますよ、先輩」


1「そうしろ。あぁ、それにしても――」


2「なんです?」


1「ピチピチ女子大生の汗の香り! やっぱりいいなぁ……人間界って、超最高だ!!」


2「……私も、いずれこうなる? いえいえ、まさか。有り得ない……」


ト、ミサキの部屋。


コ「出来たぞ、ポップコーン。バターと塩をかけた」


ミ「わっ、ありがとう!」


コ「……ところで、このアドダスのスポーツタオルだけど。これって、俺が前に忘れていったヤツじゃないか? たしか、見つからないって言ってたんじゃ……」


ミ「え? あ……ぅ、うん、実は、そうなの……」


コ「洗った気配も無いし。どうしたの、たまたま出てきたとか?」


ミ「……じ、実は、見つからないってのは、嘘でね? コウスケの匂いが恋しくて……寂しくなると嗅いだり……してたり……して……」


コ「…………」


ミ「ぉ、怒った? ひっ、引いてない? あたし、幻滅されちゃった!?」


コ「いや、たぶん、他の人相手ならドン引きものなんだろうけど……でも、なんでだろう。ミサキ相手じゃ、ぜんぜん嫌じゃないな」


ミ「ほ、ほんとに?」


コ「うん。今後、どんな秘密が出てきたって、『それもミサキかぁ』なんて受け入れられちゃうんだろうな。たぶん俺って、本当の意味でミサキが好きなんだ」


ミ「も、もう、敵わないなぁ……ポップコーン貰うねっ」


コ「あっ、熱いぞ! 気を付けろよ」


ミ「あつつっ!」


ト、ミサキ、ポップコーンを食べて、笑う。


ミ「ふぅん……これが、映画の中では冷たい雹になるわけね?」


コ「そうだな。……なんだ、話、ちゃんと聞いてくれてたんだ」


ミ「ふふっ、当然じゃない、そんなの。もう一つ……」


ト、ミサキ、またポップコーンを食べる。


ミ「ふふっ、美味しいっ」



                  ――完――

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