第14話 「人間達から見る勇者とは」



 魔王城にいると時間の感覚なくて今が朝なのか夜なのかも分からないけど、今は夜のはず。

 時計がない生活ってしたことないから、なんか違和感ありすぎる。


 自室でベッドに横たわりながら、俺は深く息を吐きだした。

 まだ数日だけど、この生活にも慣れたな。時間や日にちの感覚がないと何日過ぎたのかどうかも分からない。時間に縛られた生活してるのは人間だけなのかな。元人間としては時計欲しいんだけど。

 ゲーム中はこの世界に時計があるかどうかなんて気にしたことなかったからな。ゲームの進行には関係ないし。一応朝とか夜とかの概念はあったけど細かい時間帯までは分からない。

 下界探索するついでにちょっと調べてみようかな。


「……アイツは、どうしてるのかな」


 あの勇者、ちゃんと怪我治ったかな。

 一人になるとどうしても思い出してしまう。これはもうダメだ。もう病気だと思うしかない。

 魔王だから勇者のこと考えるのは仕方ないことだ。そう思うしかない。

 だって、気になっちゃうだろ。怪我もしてたし、何ていうかボロボロな感じもした。見た目とかじゃなくて、精神面が。

 アイツの目、生気を感じられなかった。あれが世界を救う勇者の目とは思えなかった。

 何があったんだろう。みんなの希望を背負った勇者のはずなのに。


「……人間達の話でも聞ければ何か分かるかな……」


 噂とかそういうのでもいいから、なんか情報集められないかな。

 リドも気配を消した俺に気付いてなかったみたいだし、普通の人間なら見破れないだろう。

 じゃあ朝になったら様子を見に行ってみるか。それまで寝てよ。6時間経ったらリドが起こしに来てくれるし。



ーーーー



「よし」


 朝になり、リドに起こしてもらった。今日からは自分で身支度やるからと伝えたらちょっと寂しそうな顔してたけど、気にしないことにした。

 今日は予定通り、情報を集めに行くぞ。あくまで敵の視察だ。もしバレてもこういえばリドも納得してくれるだろう。


 俺は気配と姿を消して、適当な街の近くまで降りてみることにした。

 バレないだろうと思っても、ちょっとドキドキするな。もし見破られたら大騒ぎになるし、そうなると戦わざるを得ない。

 無益な争いはしない。過去の記憶を見ても、クラッドも自分から敵に挑むようなことはしていない。自分や仲間を守るためにしか力を行使していない。

 俺だってさすがに元人間だし、なるべくなら避けたいところだ。


 この辺はちょっと小さな町だけど、どこだろう。ゲーム上で見るのと自分の目で見るのとじゃ感覚違うから、すぐにここがどこか判断しかねるけど。多分、建物の配置からしてシウルの町かな。王都から少し離れてるけど、勇者の噂くらい届いてるはず。

 俺は耳を澄ませて人間達の声を拾っていった。

 関係のなさそうな日常会話はどうでもいい。勇者のワードを拾え。気配を遮断してる状態だから探知魔法とか使うわけにもいかない。自力で見つけるしかないんだ。


「そういえば、勇者様の話聞いた?」

「この前、王様に選ばれたっていう?」


 広場で若い男女が話してる。

 何か有益な話だといいんだけど。


「なんでも、彼に頼めば魔物退治でも何でもしてくれるらしいぜ」

「さすが勇者様。この世界をお救い下さる方だものね、頼もしいわ」

「ああ。彼さえいればもう魔物なんて怖くないな」

「早く魔王を倒して私たちが安心して暮らせるようにしてほしいわね」

「そのための勇者様だからな」


 魔物退治、か。確かに色んな町に行くたびにサブクエで頼まれたっけ。中には魔物関係ない雑用とかもあったけど。

 じゃあこの前のもそうなのかな。森に現れる魔物を全部倒せ、なんてクエストはゲームじゃなかったけど。なんでもゲームを比較に出すのも良くないか。

 それにしても、これじゃあ勇者は救世主っていうよりただの便利屋扱いじゃないか。ゲームやってるときはあまり気にしてなかったけど、確かにそう思われてそうな感じはあるな。実際にこう言う人間達の声を聞くとちょっとムカつく。

 まぁそうやってみんなのお願いを聞いて、経験値やアイテムを貰ったりしてゲームを進行させていくしかなかったんだけど。

 あの勇者は、こういうのどう思ってるんだろう。嫌なのかな。だからあんな目をしていたのかな。


 それから他の町、色んな人間の話を聞いてみたけど似たような話ばかりだった。

 あまり重要な話題もなかったな。勇者もどこにもいなかったし。またどこかのダンジョンでモンスター退治でもしてるんだろうか。

 人と関わるよりそっちの方が気が楽なのかもしれないな。俺も基本的にコミュ障だからその気持ちは分からなくもないけど。いじめのせいで友達もいなかったし。


 仕方ない。今日はもう帰るか。

 小さくため息をつき、俺は魔王城に戻ろうとした。


「……ん?」


 何だろう。何かを感じた。誰かの気配だろうか。

 知ってる人の気配。リドじゃない。魔族のみんなの誰でもない。それならすぐに分かる。


 じゃあ、この気配は誰だ。

 俺が他に会ってるのは、アイツしかいない。

 まさか。そんなわけない。

 だって、この気配を感じるのは、あそこだ。

 あの、森の方。

 なんでまだいるんだよ。もう怪我は治ってるだろ。一晩寝ればある程度魔力も回復しただろうから、自分で治療できるはずだ。


 じゃあ、なんであの場所にいる。


「……っ」


 少しだけ。

 ちょっと様子を見るだけだ。

 俺は、オーファスの森にある小さな洞窟へと行くことにした。



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