第13話 「魔王さま、オムライスに旗つけますか」




 魔法の知識も得たことで、俺も魔王としてのレベルが一つ上がったような気がしないこともない。

 しかしまぁ、これからどうしようか。

 俺の見た目を元のクラッドだったときの姿に戻さないと魔王として格好悪いから、姿を戻す方法を見つけることがとりあえず今の最優先ではあるんだけど。


「そういえばリド、フォルグは?」

「彼はまだ下界をうろついているので、あとで呼び戻しておきますね」

「うん。よろしく」

「フォルグなら魔法知識に長けていますので、何かいい方法を考えてくださるかもしれませんね」

「だといいんだけど」

「私はその見た目の魔王様も良いと思うんですけどね。懐かしくて」

「嫌だよ、弱そうだし」

「それだけの魔力を持って弱そうなんてことないんですけどね」


 オーラとかそういうんじゃない。ゲームをプレイしていた身としては魔王はあのカッコいいビジュアルであってほしいんだ。

 クラッドのデザイン、俺好きだったんだ。勇者の次に好きだった。それなのに今の俺はただのクソガキだし。


「リド、俺って何してればいいのかな」

「何、とは?」

「いや、仕事……というか、何かやらなくていいのかなって」

「魔王様は我々の王ですから。この魔王城でどっしり構えててください」


 その言い分も分かるんだけど、それじゃあ俺が落ち着かない。何もしないでみんなに任せっきりっていうのも何かなぁ。

 そういうのが王様なのかもしれないけど、俺は今まで一般人だったし。またこっそりダンジョン探索しちゃおうかな。偵察しに行ってたって言えばいいよね。気配消せるし、不可視化すれば完全に見つからないし。


「じゃあ、基本的にはみんなに任せるよ」

「ええ。それより魔王様、そろそろお食事のお時間ですよ」

「ああ。そういえばお腹空いたかも」


 魔族って何食べるんだろう。まさか人間とかじゃないよな。さすがにそれは嫌だ。いくら魔王になったからって悪食はちょっと。

 もしそういうのだったら、今後は自分でご飯用意しよう。森で果物取ってきたりとかして。


 俺はリドと一緒に食堂へ向かった。近付くにつれて物凄く良い匂いがしてきた。この匂いなら変なものではなさそう。

 俺は小走りで食堂に入っていった。


「あれ、誰かと思えば魔王様じゃないですか。今日は随分と可愛らしい姿ですね」

「えっと、あれ、イメチェンです」


 食堂に入ると、シェフのピュールがキッチンから顔を出してきた。

 地獄のマスターシェフ、悪魔のピュール。見た目は優しいお兄さんみたいだけど、バトルになるとメッチャ怖くなるんだよな。コイツの全体攻撃、面倒だった。


「本日は季節の野菜のサーモン包み、マグロのポワレ、ポークソテーのクリームソースですよ」

「メッチャ美味そう」


 よかった、ちゃんとしたメニューだ。

 ゲームでもアイテムクリエイトで料理作れたりするもんな。異世界のゲーム世界だけど元の世界と食べるもの同じで助かった。

 食卓に付いて、ピュールの作ってくれたコース料理を味わう。元の世界でもこんな豪華な食事なんて食べたことないぞ。ファミレスくらいしか行ったことないし、フルコースとかそういうのと無縁だったもんな。

 こんなに柔らかくて美味しいお肉初めて食べた。魔王になって良かったなぁ。


「見た目が変わっても、魔王様は相変わらず美味しそうに食べてくださいますね」

「だって美味しいものは美味しいし」

「そうでした。ピュール、貴方にも一応説明しておきますね」

「ん?」


 リドはピュールにも俺の記憶がなくなっていたことや見た目が変わってしまった理由を話した。食堂には基本的に毎日来るわけだし、頻繁に顔を合わせるから事情を知っておいてもらった方がいいもんな。


「そんなことが起きていたんだ。大変だったね、リード様も」

「フォルグが戻ってきたら彼に相談しますが、もし貴方も何か魔王様のお姿を戻す方法の手掛かりが掴めたら報告してください」

「了解です。僕に出来ることがあれば」

「ありがとう、ピュール。助かるよ」

「いえいえ、我らが王のためですから」


 特に疑うこともしないんだな。さすがクラッド、慕われてる。魔族全員の好感度カンストしてるぞ、これは。


「それにしても、懐かしいですね。魔王様のその姿」

「え?」

「我々幹部は100年前から貴方と一緒でしたからね。私はその姿の頃から魔王様のお世話をしてましたし」

「あー、そうだったな。リド、昔から俺の世話係だったもんな」


 クラッドの記憶にもあったな。二人は昔馴染みで、もっとチビだった頃からリドは色々と世話焼いててくれたっけ。

 それからクラッドが魔物を統括するようになってから、メアドールやピュール、他の幹部たちと仲間になって、この魔王城を作った。

 そりゃ信頼も厚いわけだよ。


「小さい頃の魔王様、好き嫌いが多くて大変だったよね。あのときは苦労したよ」

「む、昔の話を掘り返すなよ」


 俺の子供の頃の話じゃないけど、なんか恥ずかしいだろ。

 俺自身も小さい頃は好き嫌い多かったな。母さんが怒ると怖いから食べるようになったけど。

 さすがもう一人の俺。その辺も同じだったんだな。


「魔王様、食後のデザート食べます?」

「子供扱いしてないか?」

「まさか! 明日の食事はオムライスにしましょうね」

「子供扱いするなって!」


 早く見た目を元に戻さないと、いつまでも子供扱いにされちゃうぞ。さすがにそれは嫌だ。

 お子様ランチを出される前にどうにかしなきゃ。



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