第8話 「はじめての異世界探索行ってきます」




「……っ、ん」


 深い闇の中から意識が浮上して、俺は目を覚ました。

 夢、じゃないよな。あれは確かに魔王の、クラッドの記憶。朧気だけど、目が覚める直前にクラッドの纏っていた光が俺の中に入っていくのが見えた。

 あれは、俺に託したって言うことでいいのか?


「じゃあ、今なら……」


 俺は深呼吸して、気持ちを落ち着けた。

 そして意識を集中する。分かる。全身に流れるの魔力を、この体が覚えてる。

 俺はもう、知ってる。頭の中でイメージすればいい。

 手始めにまずは、飛ぶイメージを。

 体を浮かす。

 俺の知ってる魔王は空を飛んでいた。だから俺も、飛べる。

 そうすれば、会いに行けるかもしれない。


「……っ!」


 ふわりと体が浮いた。地面に足がつかない感覚に少しだけ恐怖心を抱くけど、ちゃんと俺は魔力を制御できてる。体に巡る魔力がちゃんと手に取るように分かる。

 俺はテーブルに置かれた本に手をかざし、スッと手を上にあげてみた。それに応えるように数冊の本が宙に舞い、俺が手を動かす方向に移動する。魔法ってやっぱり便利だな。

 浮かした本を元あった場所に戻し、俺は書斎を後にした。




ーーーー



 クラッドの記憶を知ったからなのか、魔力を自分で感じ取れるようになったからなのか。さっきまでより体が軽く感じる。浮いてるせいかもしれないけど。

 なんと言えばいいのかな。ようやく頭に酸素が届いたみたいな。とにかくスッキリしてる。

 そういえば、なんで俺容姿は変わってないんだ。魔力が制御できないからこの姿になったってリドは言ってたけど。いや、それもあくまで推測にすぎないか。じゃあ別に理由があるのか?

 この格好の方が都合がいいのか。それとも俺がまだ魔力を完全に制御しきれていないからなのか。まぁ魔法は使えるようになってるし、格好なんて別にどうでもいいんだけど。


「それにしても、浮遊しながら行動できるの便利だなぁ」


 これなら疲れないし、歩くより早い。魔王の力様様だ。

 さて、これからどうするかな。もう一人で外で歩いても問題はないと思うけど、勝手に行ったら怒られるかな。

 いやいや、俺は子供か。リドの子供じゃないんだから、もう好きにしてもいいだろ。でも心配かけるもの良くはないよな。


「……遅くならないうちに戻ればいいかな」


 リドは俺が書斎で調べものしてるって思ってるし、ちょっとくらいならいいだろ。人間に見つからないように気を付けながら行動しないとだな。

 確か魔導書に気配を消す魔法があった。クラッドの魔力ならあれくらい使えるはず。街とか人の集まるところにさえ行かなけりゃ魔族だってバレないだろ。


 俺はこっそり城を抜け、人目の付かない場所へと降り立った。

 俺が最初に目を覚ましたあの森なら多分大丈夫。せっかくだし、ちょっとくらい異世界観光したっていいだろ。まぁ街に行けないから観光も何もないんだけど。

 でもゲームの世界に転生したんだからちょっとくらいダンジョンとか実際にこの目で見てみたい。良いよね、ちょっとくらい。それにほら俺は魔王だし、偵察みたいなもんだよ。良いよな、クラッド。それくらい許してくれるだろ。

 あの森、オーファスの森は結構最初の方にクエストで勇者も来る場所だ。もしかしたらワンチャン勇者の顔を見れるかもしれない。

 と言っても、直接会うことはできないし遠目からしか見れないのは残念だけど。

 それに、真面目な話をすれば魔王としてこの世界のことをちゃんと自分の目で見ておきたいっていうのもある。

 俺自身はまだゲームでしかこの世界を見てない。あくまでプレイヤー。人間側の目線でしか知らないアイゼンヴァッハをしっかりと見ておきたい。

 魔王としてこの世界を知ることで、何か思うこともあるだろうし。魔王の目に映る人間の世界がどういうものか知っておかないと。

 俺はクラッドに託されたんだ。そして俺自身も彼の望みに共感させられるところはある。何も知らないまま、ただただ人間と戦うのは嫌だ。


「それにしてもオーファスの森って結構怖いところだな……」


 薄暗いし、木がめっちゃ生い茂ってるから陽の光が遮られているんだな。

 しかもここってゴースト系の敵が多かったっけ。あとは墓場が近いからアンデッドモンスターも結構湧くんだよな。状態異常にさせられるから苦労したっけ。

 この姿を他の魔物に見つかるとリドにあとで何言われるか分かんないし、見つからないように不可視化させるか。姿を消す魔法も魔導書にあったから覚えておいた。


「軽く探索して、城に戻らないとな……」


 じゃないとお母さんに怒られちゃうからな。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る