第1350話 未完成なラジオドラマ

俺はタクシーの運転手だ。口下手で喋るのが苦手な俺は、客を乗せるとすぐにラジオのボタンを押す。気まずい空気になるのを防ぐためだ。車内にはラジオの音だけが響き渡る。

「さあ本日もラジオドラマの時間がやって参りました」

「…………」

「『ミッドナイト・カフェ』です」

しかし俺の思いとは裏腹に、ラジオから流れる番組に反応する客はいなかった。いつものことだが、少しだけ寂しい気持ちになった。そして今夜もまたラジオは静かに流れ続ける。

「いやー、続きが気になりますね」

「でもこの物語が完成することはないんですね」

「どうしてですか?」

「それはこのコーナーが未完成なラジオドラマだからですよ」

「えっ?でもオチはバッチリ決まってたじゃないですか」

「何事も精進することが大切なんですね。完成して満足したらそこで終わりです」

そうか。俺も少しずつ客と話して成長していけばいいんだ。そう思えるようになった。

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