第933話 受話器越しの声

プルルル。電話が鳴った。

さっきまで散々泣いていた。腫れた赤い目のまま受話器をあげる。


「もしもし」

「もしもし。あんた宛に荷物送ったからね。そろそろ着く頃だと思うから」

「荷物?」

「あんたがちゃんと食べてるか心配でね。お母さんの手作りの漬物とかをね。あんた好きだったでしょ」

「うん、ありがと」

「体に気を付けるのよ」

「うん」

「たまには帰ってきなさいよ」

「うん」


電話は切れた。受話器越しに久しぶりに聴いた母の声は、とても優しく感じて。この都会では、人の温かさなんて微塵も感じなかった。だけど久しぶりに母のぬくもりを感じた。どうしてだろう。受話器越しの声は、こんなにも温かいのは。


プルルル。電話が鳴った。職場の同僚だった。今日の上司は本当に最低だってね、なんて話だった。私にも味方がいた。受話器越しの声に助けられ、私はすっかり元気を取り戻した。負けない。もっと強く生きてみせる。

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