第889話 溺れた

目が覚めたらそこには、君がズブ濡れで僕の顔を見上げていた。


「良かった……。生きてたのね」

「ここは?」

「あなたが溺れてたから必死になって助けたの。もうダメかと思った。うっ……ううっ……」


安心したのか君は泣き出した。体はなんともない。僕が溺れたという記憶なんてないけど、君がそう言うんだからきっとそうなんだろう。


「ごめんね……。ごめん……。私のせいで」

「いや、溺れたのなら僕のせいだよ。君は何も悪くないよ」

「ううん、違うの。私が悪いの。私が強く思いすぎたから」

「思いすぎた?どういうこと?」

「あなたはね。私の愛に溺れたの」

「愛に溺れた?」

「私があなたを強く思いすぎたから」


愛に溺れる。そんな事があるなんて。

僕はそんな突拍子もない話にただただ驚きを隠せなかった。

つまり僕は、君に海よりも深く深く愛されたってことか。


「それも悪くないよ」

僕は、そう言って笑顔で答えた。

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