第421話 笑顔を振りまいて
青い空。白い雲。真昼の陽炎が立ち込める夏の時。彼女はそこに立っている。僕が追い付くと彼女は、走って少しだけ先に進む。後からゆっくり歩いていく僕に笑顔を振りまいて手を振っている。歌声が聞こえる。彼女は歌を歌い始めた。透き通るような綺麗な声だ。夏の容赦ない暑さにも負けず、彼女は元気だ。ビュッと風が吹き、彼女が被る鍔の広い帽子が飛んでいった。
「あっ……」
僕は声を出した。帽子は空高く舞い上がり、風に乗って紙飛行機のようにフワフワと飛んでいく。彼女は帽子を追いかけていく。それを見て僕も彼女の後を追いかけて走り出した。ようやく帽子を捕まえた彼女は、帽子を拾い上げて被る。そしてくるりと僕の方を向く。
「ねぇ。約束覚えてる?」
「もちろん」
「三年間ずっと待ってたんだよ。長かったなぁ」
「悪かったよ。待たせちゃって」
彼女が走ってきて、僕の胸に飛び込んできた。
「おかえり」
「ただいま」
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