第412話 風を受け止めて

何不自由なく育てられた。衣食住に一切困る事はなかった。大きな屋敷で使用人が身の回りの世話をしてくれて、あらゆる教養も身につけさせてもらった。だが私は、この屋敷から出られない生活が窮屈で仕方がなかった。外には色々な場所、人がいて、見た事のない世界が広がっている。本の中でしか知らない世界ばかりだ。私は、そんな世界を自分自身の足で見て回りたいと思った。


「決めたわ。私、冒険に行く」

「お、お嬢様。いけません。お嬢様一人で冒険だなんて」


もちろん両親にも使用人達にも反対された。私は籠の中、いや、屋敷の中の小鳥。私はこのままでは、将来どこかの貴族の家に嫁ぐ事になるだろう。


だからその前に――。

色々な世界を見たい。


私は船を買った。船の操縦も覚えた。準備は出来た。さあいこう。

そして私は出向した。


そっと小さな幸せを噛みしめる。私はもう自由なのだと。

船は走る。風を受け止めて。

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