第410話 たなかの名札

左の胸ポケットに付いた名札には、”たなか”とひらがなで書かれていた。たなかは、スーツ姿だった。正午の時間帯、うどん屋のカウンター席で隣に座ったその男は、きつねうどんを食べていた。そんな”たなか”は、私の方に向いた。


「ねぇ。お姉さん」

「はい?」

「僕の名前、何だか分かります?」

「たなか?」

「えっ!凄い!どうして分かるんですか?」

「だって名札が付いてるから」

「あっ、いけない!!名札付けっぱなしだった」


”たなか”は、そう言って、グーで自分の頭をポンッと叩いた。まるでぶりっ子の女子のようだ。


「というのは、嘘。名札を付けてるの忘れてたわけじゃないですよ」


嘘かよ!!何なの!!


「で?」

「実は、たなかって偽名なんですよ。お姉さん。僕の本当の名前分かります?」

「知らないわよ」

「僕の本当の名前、それは……中田です。田中の逆でした」


誰かこのうざい客を店から追い出してくれ。

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