第401話 書道

書道とは、心で書くものである。


先生の言う言葉の意味が分からなかった。先生のお手本を左側に置き、先生が書いたとおりに書けば良い作品になる。綺麗な字になるのだ。何度もそれで私は、書道コンクールで入選してきた。とにかく綺麗な字を書けばいいのだ。


「茜ちゃん。この字はダメね」

「どうしてですか?」

「ここ」


先生は、そう言って私の胸をコンコンと叩く。


「また心ですか。心で書くなんて私には、理解できないです」

「茜ちゃんの字は綺麗だけど、茜ちゃんらしさが出ていないのよ」

「私……らしさ……?」

「百聞は一見に如かずね。書道展のチケットをあげる。見に行ってくるといいわ」


私は書道展へ行った。そして私は一つの作品の前で電撃を浴びるかのような衝撃を受けた。

「寿」の文字が書かれたその個性的な筆跡の作品からは、書いた人の笑顔が頭に浮かんだ。そうか。私は人の真似ばかりで個性がなかったんだ。

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