第349話 逆回りの時計

祖父が死んだ。遺品整理をしていると祖父が生前、大切に身につけていた腕時計があった。デザインが渋くて格好良かった。父に言ってその時計は、僕が貰う事になった。時計を腕につけた。すると針は、突然逆回りに回り出した。そして僕は、祖父の記憶を追体験していった。生まれてすぐの赤ちゃんの僕を初めて抱っこしている時の祖父の嬉しそうな顔が見えた。そして子供の頃の父と遊ぶ若い頃の祖父。工場での仕事を頑張っている祖父。祖母と出会った時の祖父。子供の頃、敗戦の影響で食べる物も少なく、貧しい生活を送っていた祖父。それでも生きなければならなかった激動の時代。逆回りの時計は、祖父と共に歩んできた祖父の人生の全てを僕に見せてくれた。祖父は、こんなにも懸命に人生を精一杯生きてきたのだと思うと僕は、涙が出てきた。祖父が頑張って生きてくれたからこそ、僕は存在しているんだ。


おじいちゃん。本当にありがとう。

ゆっくり休んでね。

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