第279話 不協和音
俺は幼い頃、ピアノ教室に通っていた。ピアノ教室の先生には、耳が良いねとよく褒められたものだ。そして俺は、絶対音感を身につけた。どんな音の音階も分かるようになった。例えばゾウの鳴き声であるパオーン。これはラドーで表す事ができる。狼のウオオーは、シー。そんな俺は、音楽好きの奴らに重宝された。
「なぁ、お前絶対音感持ってるんだろ?頼む!!この曲の楽譜作ってくれよ!!バンドで弾きたいんだ」
この台詞は何度言われた事か。だが人から頼られるのは、嫌いじゃない。悪い気はしない。俺の能力が生かせるのならばと楽譜を作って渡してやるのだった。
そんな俺も社会人として一般企業に就職した。就職面接で特技は何ですかと聞かれ、絶対音感だと答えた。だが俺は、その会社を三ヶ月で退職した。
なぜならば……
この会社の経営状態かなりやばいんじゃない?という不況和音が聞こえたからだ。俺は自分の耳に絶対の自信があるからな。
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