第125話 夏に帰る

歩く速度が速い君に走って追いつき追い越し、私は立ち止まる。もう一度だけあの懐かしい夏に帰る事ができたら、いつか忘れてしまった人を好きになるという気持ちを再び思いだせる。そう思ったんだ。だからこうして、この夏に君と会う事にした。

私が転校してから3年。君は背が伸びて以前よりも男らしくなった。相変わらず君は、女の子に歩く速度を合わせるなんて気の利いた事ができるような男の子ではないけど。でもそれでも何も変わらない君の仕草や態度に、どこか私はホッとしたんだ。


「私ね、君が好きだったんだよ」


好き……だった。うん、過去形。

もうあの時から3年も経ったんだから。


「じゃあ付き合う?俺と。俺もお前の事、好きだけど」

「えっ?でも遠距離に……」

「別に距離なんて関係ねぇよ」


全く君は……。

距離も3年という空いた時間も全然気にしない雑な男の子なんだから……。


「じゃあ…よろしくお願いします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る