第120話 紫陽花の唄

今日も雨。梅雨である今の時期は、ジメジメして嫌いだと言う人もいる。でも僕は梅雨が好きだ。なぜなら梅雨は、紫陽花が見頃だからだ。紫陽花は、とても綺麗な花だ。梅雨のジメジメした嫌な気持ちも紫陽花が綺麗に咲き誇っている姿を見れば吹き飛ぶ。小さい頃、散歩しながらおばあちゃんが教えてくれたことがある。「梅雨の時期、紫陽花は唄を歌うんだよ」と。

「どんな唄を歌うの?」と僕が聞くと、おばあちゃんは「家族の皆がいて楽しいよって歌ってるんだよ」と言った。おばあちゃんは、その年の冬に亡くなった。僕は涙が枯れるまで泣いた。その次の年の梅雨。外を見ると庭に綺麗な青色の紫陽花が咲いていた。庭に紫陽花を植えた覚えがないのになぜか咲いていた。


それは、おばあちゃんの仕業だと分かった。おばあちゃんは、亡くなる前に紫陽花を庭に植えていたんだ。


「家族皆で仲良くやるんだよ」と、おばあちゃんのそんな言葉が聞こえた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る