第66話 気の利いた財布

「お兄さんお兄さん。ちょっと見ていってよ。掘り出し物があるよ」


道に風呂敷を広げて露店をしている胡散臭い感じの男に声を掛けられた。


まただ…。前にもこのおっさんに話しかけられて、俺は陽気なシャンデリアを買わされたんだ。


「お兄さん。財布がボロボロだね」

「ああ、まあ…確かに古いけど」

「ならこれなんてどうだい?気の利いた財布」


俺は男のセールストークに乗せられ、千円という安さもあって気の利いた財布を買った。


家に帰って、早速財布の中身を入れ替える。するとすぐに気の利いたの意味が分かった。


適当に入れたはずのお札の向きをそろえて入れてくれる。カードをよく使う順番に並べてくれる。不要なレシートを勝手に捨ててくれる。


おお…。これは便利だ。良い買い物をした。

だが買い物をする度に「無駄遣いはしない方がいいです」と喋りかけてきて鬱陶しい。

それだけが悩みだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る