第7話
ひったくり現場は家から歩いて十分くらいのスーパー近く。朝七時から開店していて、通勤通学の時間帯で人通りも多いから昼間よりも治安が良いと評判だった。
「まずは被害者に事情を聴かないと」
意気込んで現場に向かう途中、男性だけでなく女性からも視線を感じた。
「胸を見る視線は気付くって本当だったんだ」
すれ違う人、すれ違う人、ほぼ全員私のおっぱいをチラ見する。だぼっとした着こなしなら膨らみを誤魔化せるけど、警察官の制服をそんな風に着るわけにはいかない。その結果、胸の膨らみがさらに強調されてしまっていた。
(おっぱいに気を取られてるとひったくりの被害に合うわよ)
なんて注意を直接できるわけがないので心の中にとどめていた矢先。
「キャー!」
女性の悲鳴が聞こえた。まさかひったくり⁉
急いで声の方へ走るのだが……。
ぽよんぽよんぽよよん
ブラと制服でしっかり押さえ付けたはずの胸に身体の振動が伝わってこそばゆい。
前に向かって走っているはずなのに、おっぱいは右へ左へと揺れるため身体の軸をブラされる。
周りに人がいないことを確認して、念のため魔王にも聞いてみる。
「一応確認するけど、あなた動いてないでしょうね?」
「余は何もしておらぬ。そんなに気になるなら歩けばいいであろう」
「そんなわけにはいかないの! 早く現場に行かないと」
今回はブラをしているので乳首がこすれることはなかったものの、やはり身体に重さを感じざるを得ない。
「前ならもっと速く走れたのに」
小さな身体と胸にコンプレックスを持ったこともあったけど、おかげで警察官として活躍できたこともたくさんあった。加齢による衰えではなく、突然やってきた理不尽な身体の変化に涙が出そうになった。
「そんなに余の動きが気になるのなら手で押さえつければいいであろう」
「え?」
「だから、手で押さえつけろと言っておる」
「そんなことしたら」
あなたが苦しくなるんじゃないの?
自分をこんな状況に追いやった魔王に対する気遣いの言葉が口から出掛けたがグッと堪える。
「あなたが自分で言い出したんだろうから後で文句言わないでよね!」
むぎゅっとおっぱいを鷲掴みにしてしっかり固定。右へ左へと身体の軸をブラすおっぱいの動きを克服した私は以前と同じ速さで道を駆け抜ける。
「むぐぐ……家臣の願いを叶えるとはやはり余は魔王としての器が大きい。少しずつ
余の魅力に憑りつかれゆくゆくは」
魔王がもぞもぞと何か喋っている気がするけど今は気にしない。とにかく現場へ走る。
「助かった……なんて言うのも釈然としないわね。この姿勢で走るのも恥ずかしい」
自分の胸を押さえながら走る警察官。客観的に見え今一番怪しいのは私だと思う。
ちくビーム動画の件もあるしやっぱり異動した方が……ううん! 私にはまだこの町でやらなきゃいけないことがある。そのためにはおっぱいに振り回されてる場合じゃない!
羞恥心を捨てて走っていると、バイクに乗った見るからに怪しい男とすれ違った。チラリと見えたのは女性モノのバッグ。証拠品を見せびらかしながら逃走なんていい度胸してるじゃない。
「そこのバイク止まりなさい!」
大声で叫ぶものの。これで止まる聞き分けのいい人間なら最初からひったくりなんかしない。
バイク 対 人間。普通なら人間の私は絶対に追い付けない。でも、この辺は小柄だからこそ通り抜けられる秘密の道がたくさんある。
犯人は左に曲がった。あそこを曲がるとバイクは道なりに進んで商店街前に出るしかない。
「ふふ、私がなぜこの地域の検挙率が高いかを教えてあげる」
成人男性では通れないような隙間や裏道を通って先回りすることで逃亡する犯人を捕まえてきた。その実力を魔王にも知らしめてやる!
「まずはこの塀と塀の間を……っ!」
ランドセルを背負った子供では通れないような狭い隙間。今までの私はそれを悠々と通り抜けてきた。小柄で貧乳であるメリットだったのに……。
「試すまでもなく通れない」
多少の膨らみなら押し付ければどうにか通れたかもしれない。しかし、このサイズともなるとどう頑張っても無理! 乳首が
「ど、どうしよう。応援の人達が間に合ってくれるといいんだけど」
これまでのパターンだと、私が先回りして足止めをして、駆けつけた他の警察官と共に事情聴取をしてきた。初動で逃すとどうしても確保に時間が掛かるため何としても商店街で犯人を捕まえたい。
「貴様、相当に困っておるようだな」
私の焦りを感じとったのか魔王が嬉しそうに話し掛けてくる。
「外では喋らないでって言ったでしょ」
「ほお? そんな態度を取っていいのか? 余が力を貸せばあの男に追い付けるかもしれないのに」
「え?」
さっきそうだけど魔王は妙に協力的だ。
「貸しを作って身体を寄越せとか言うんでしょ?」
「貴様の発想の方がよっぽど魔王に向いておるわ。なあに、ただ気まぐれで手伝ってやろうと思っただけだ。不要なら余は知らん」
「ぐっ……!」
まさに魔王のささやきだった。ここで魔王の力を借りたらそのまま身体を乗っ取られるかもしれない。だけど本当にただ力を貸してくれるだけなら? 犯人をすぐに捕まえられて町の平穏を取り戻せる。
力を借りても借りなくてどうせ魔王がくっ付いてるなら、力を借りてそれを仕事に活かした方が得かもしれない。あの日からおっぱいに悩まされ続けたけど、おっぱいを活用する人生にすればいいんだ!
自分の中で何かが吹っ切れた私は魔王おっぱいに向かって叫ぶ。
「魔王、私に力を貸しなさい。ただし、妙なまねをしたら鉄製のブラでギッチギチに締め上げるから覚悟しなさい」
「本当に魔王みたいなことをいう女だな。では余が力を使うためにそのブラとやらを外してもらおうか。ついでにボタンも。窮屈で何もできん」
「え?」
「いや、これではどうにもできん。この前みたいにビームで無理矢理壊してもいいのだが、貴様が社会的に死んだら余も困る」
「ノーブラでボタンを外す警察官って完全に怪しいコスプレじゃない! まさか魔王、私の恥ずかしい格好を見たいだけなんじゃ」
「誰が貴様みたいなガキの身体で喜ぶか! 余はサキュバスみたいなアダルティな雰囲気を漂わせる魔物が好みだ」
「……中学生みたいで悪かったわね! おっぱいだけは一人前よ」
「中学生? どんなものか知らぬが、そのおっぱいは余だろ。何を自分のものみたいに言っておるのだ」
「ぐぬぬ……っ! 勇者から逃げた腰抜けのくせに」
「それを今言うか! 力を貸してやらんぞ!」
「くっ!」
たしかにここで魔王と口論している場合じゃない。力を借りると決めた以上、覚悟を決めて犯人を追わないと。
「わかった、脱ぐ……けど。ホックを外すだけにさせて。もし何かあったらすぐにあなたを抑え付けられるように」
実際問題、ブラを完全に外そうと思ったら服を脱がないといけない。それはさすがに公然わいせつ罪に問われるし、公衆トイレに行って着替えている時間的余裕もなかった。
「まあ良い。余の圧倒的な力にはそれくらいのハンデがあった方が貴様のためだ」
「はあ? なんで私のためになるのよ」
魔王と話ながらホックとボタンを外すと自分の心まで解放されたような気分になった。押さえる力が減ったおっぱいは重力に従いたぷんと服の中で拡がる。
「フフフ、それはな。余の力に貴様が耐えられぬからだ。いくぞ。
「ちょ、今めぐるってえええええ」
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