第千七十二話・久遠諸島の結婚式

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 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻

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Side:久遠一馬


 今日で滞在、十一日目か。


 二日間に渡る自由行動の翌日も職人衆とかウチの関係者は忙しそうなので、残る皆さんを連れて島を一周する形で観光をした。


 畑や果樹園もあるが、自然も当然ながら残っている。この島は史実と同様に貴重な動植物があるので、そのあたりも織田家の皆さんに説明しながらね。


 その翌日である昨日は漁業を見学した。カヌーのような船とそれをふたつ使った双胴船での漁など、いろいろと見せることが出来た。


 楽しい日々はあっという間だったな。明後日には日ノ本への帰還をすることになり、今日は慶次とソフィアさんの婚礼をする。


「へぇ。こんな結婚式だったんだな」


 妻たちが以前から細かく検討していた創り上げたことには、島での風習もある。日々の暮らしから冠婚葬祭まで。


 元の世界のままというのも合わないし、かといって日ノ本と同じというのもオレたちの生き方と合わないからね。みんな、上手いこと考えてくれたんだ。


 今夜、宴をして、明日の昼に島のみんなにお披露目をするらしい。手順と内容はオレも経験したという設定なので、覚えないといけない。


 まあ、そんな難しいこともなく、島の町を練り歩いて挨拶をして歩くだけなんだけどね。念のため、オレたちのいない間に行なった結婚式の様子を密かに記録した映像で確認している。


「ああ、オレは挨拶を受けるほうか」


 宴はいいのだが、翌日の練り歩きでは挨拶を受ける立場だった。留守中は妻たちが代理で受けていて、結婚する者たちに贈り物をしていたようだ。


「身分とかいろいろと考慮したのよ」


 シェヘラザードが結婚に関する事情を教えてくれた。


 基本になったのは、当然ながらこの時代の日ノ本の習慣になる。ただし、家という体制に拘ることはしないという前提を決めていたので、島のみんなにお披露目をしながら最後にウチの屋敷にきて報告するという形にしたらしい。


 宴に関しては島のしきたりで女衆が支度をして、男衆は海で漁をして宴の食材を捕ることになっている。そのため、慶次は朝から島の男衆とウチの家臣たちと一緒に漁に出ている。昨日、漁業を見せたのは今日のためでもあるんだ。


 一益さんと益氏さんも当然、張り切って一緒に行っている。経験ないはずだけど大丈夫だろうか?


「料理のメインはウミガメね」


「ウミガメ? 美味しいの? そういえば史実でも小笠原諸島にあったと聞いたことがあるけど」


「そこは調理法次第よ。でも臭みもなく美味しいわよ。馬肉に近い感じかしら」


 祝いの料理はウミガメか。個人的にカメを食べるって抵抗あるが、ウミガメはこの時代でも世界では食べられているし、元の世界では小笠原諸島の名物だったのは知っている。


 鶴は千年、亀は万年なんて言葉もあったが、亀がめでたいのはこの時代も同じだ。島の食材であり、めでたいカメ料理をメインにしたのか。


 少し不思議な気分だね。オレたちで考えた風習とか習慣が歴史として残るなんて。まあ幸せになってくれるように、みんなで祝ってあげよう。




Side:滝川益氏


 慣れぬ船と海にもかかわらず、あの男は島の男衆に負けずに漁をしておるわ。


「うわぁ、日ノ本の武士が漁業もこれほど出来るとは……」


「あの男は器用だからな」


 島の漁師が、日ノ本の男は皆が慶次郎のように出来るのかと驚いておるので否と言うておかねばならぬ。水軍の者らは出来るのであろうが、山深い地で生まれた甲賀者でここまで出来るのはあの男だけだ。


 前回の時もこの男と孫三郎様は別格だったというからな。孫三郎様ならあるいは……。


「おおっ! ウミガメを捕ったか!」


 わしらは網で魚を捕っておるが、慶次郎は島の男衆と海に潜り海亀を探しておった。島の習わしでは宴で振る舞う料理に使うのだとか。


 己で捕れば一人前と言われるそうだが、慶次郎が大きな海亀を捕ると島の男衆が驚きの声を上げた。


 まあ、捕まえるのはさほど難しくないらしいがな。この時期は島の周りに来て、卵を産むらしい。


「さすがは領主様の御家臣だ」


「そりゃそうよ。関東では船から船へと飛び乗ってな。敵をなぎ倒しておったくらいだ」


 祝いだと皆が喜んでおる。先代までは隠れて商いをしておった日ノ本と堂々と商いをして、殿が尾張で認められておることが嬉しいのだと先ほど聞いた。


 とはいえ、若い衆も慶次郎をあまり持ちあげないでほしいものだな。悪い男ではないのだが、いささかやり過ぎる時がある。


「はっはっはっ! これは楽しいな!」


 ふと聞こえた笑い声にいささか胆が冷える。塚原殿らと共に菊丸殿も楽しげに網を引いておられるのだ。慶次郎の婚礼ならばと来てくださったのはありがたいのだが、万が一ということを思うとな。


 武家の棟梁だぞ? もっとも、殿からは塚原殿にすべてを任せればいいと言われておるので止めぬが。


「儀太夫殿いかがした?」


 いささか、呆けたように海を見ておったらしい。柳生新介殿に声を掛けられた。


「我が殿は恐ろしい御方だな」


 一面に広がる海と島。そして男衆を見ておると、我が殿の恐ろしさを痛感する。


 公方様がいて、我らがいて、新介殿らや織田の若い衆もおる。生まれも身分も一切違う者らと本領の者らがいるというのに、諍いのひとつもなく皆でこうしておることが未だに信じられぬ。


「ハハハ、関わる者らを敵ではなく味方とする。殿らしいではないか」


 新介殿はわしの考えを理解してなおも楽しげだ。生きるということがこれほど楽しいと思わなかった。以前そう言うておったな。


 これほど楽しい日々となるとはな。


 いつまでも続いてほしいものだ。




Side:斯波義統


 あの慶次郎が島の女と婚礼を挙げるとはの。驚きはあるが、久遠としては当然のことであろう。今や一馬は尾張で地位も力もある。本領と尾張の誼はわしも気にしておった。


「内匠頭よ。例の件、一馬に言うてみるか?」


「はっ、帰ってからにしようかと思うておりましたが、一馬次第では祝いの席で言うのも面白いかと思いまする」


 婚礼は尾張でも挙げるとのことで祝いは戻ってからでもよいのだが、それだけでは面白うない。実は内匠頭とは、久遠の今後のことで密かに話しておったことがある。


 内匠頭は猶子にする際に互いの家督などに関与せぬという誓紙を交わしたらしいが、此度はさらに踏み込むつもりで話しておったのだ。


 久遠の本領と属領の扱いについてだ。日ノ本の外にある久遠の領地は久遠家のものだと斯波家としても認めることと、戦の折には兵を出すと正式に誓紙に残すべきではと話しておったのだ。


 一馬はいずれ日ノ本とひとつにしたいと言うておったが、その時が訪れるまでは、余計な介入を阻止するためにも久遠のものだと認めておいたほうがよい。


 もともと猶子の際に交わした誓紙も、臣下というよりは同盟に等しい内容だ。斯波と織田と久遠は、それぞれに認めるべきところをはっきりさせておく必要がある。


 今後、朝廷や公方様が久遠のことに口を挟まぬとも限らん。こちらは先手を打つ必要がある。


 それに……、今ならばよいが、わしや内匠頭や一馬の誰かひとりでもいなくなるといかになるか分からぬ。


 久遠は織田一族であり斯波家の家臣だ。されどそれは日ノ本の中の話であり、日ノ本の外は久遠のものである。外には斯波も織田も手を出さぬと明確にしておく必要がある。


 我らが久遠の利を召し上げていると思われても困る。必要とあらば兵も出すし、利を得るために共に力を合わせるのだと明確にせねばならん。


 一馬らだけではない。久遠の民にそれを明らかにする必要があろう。


 ただの物見遊山で来たと思われても困るしの。


 まあ、一馬に問うてからだな。今がその時になるかは。



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