第千五十七話・久遠諸島滞在中・その二

※宣伝失礼致します。

 戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。9巻

 6月20日発売です!

 今までと同様にストーリーをより掘り下げる形で加筆修正してあり、書籍オリジナルの書き下ろしもあります。

 どうぞよろしくお願いいたします!!




Side:望月出雲守


「殿とお方様の生まれ故郷か」


 十日ほどの船旅でようやくご本領に着いたが、わしは他の者と違い、ゆるりとしておれぬ。本領の者らに挨拶に出向かなければならぬのだ。


 本領は武家として治めてはおらぬので、過剰な挨拶は不要だと事前に文ももらった。とはいえ、こちらから出向く誠意は見せねばならぬ。同行しておる織田家の者らには島を見せるというので、その話もしておかねばならん。


 殿とお方様が差配しておられること故、特にわしがすることがないといえばそれまでだがな。挨拶回りを兼ねて頼んでおく必要はある。


「さすがにご本領は豊かなようだな」


 挨拶回りを終える頃には昼になっておった。一旦、屋敷に戻らねばならぬと借り受けた馬車に乗る。


 贅沢をしておるようには見えぬが、どこに行ってもそれなりの暮らしなのが分かった。出された茶などは上物であったし、着物や家屋敷も立派であった。


 尾張に行って中々戻られぬ殿を案じておる者もおれば、尾張が変わったというと驚いておる者もおったな。


 面白き話も聞けた。昔は大きな船では日ノ本には近寄らず、あえていずこにでもある船に積み荷を移して、遠方にある別の町の商人を騙って商いをしておったという。ご本領が日ノ本に露見して攻められることや、船を召し上げられるのを懸念してのことだったようだ。


 それを殿とお方様がたは変えたらしい。すでにご本領と各地にある入植地というたか。人のおらぬところに築いた領地で守れると考えてのことと、遥か西より南蛮船が来るようになったことで先行きを危ぶんだためだという。


 本来は商いで更なる力を付けたかっただけらしいが、織田家に仕官したことで方針を変えたようだ。それも、殿から進んで仕官したのではなく、織田の若殿に頼まれたからだという話を聞いた時は驚いたものだ。


 なるほど、先代までの頃の噂をいずこでも聞かぬわけだ。そこまで隠しておればわかるものではない。


「ああ、出雲守殿。おかえり。ちょうどお昼にするところだよ」


 屋敷に戻ると、皆が起きていて顔色もいい。船の揺れに難儀しておった者もおるが、一晩ゆっくり寝て落ち着いたらしい。


 殿もまた故郷に戻ったことで楽しげだ。本来は、縁もない日ノ本の政など関与せずに、ここで皆の商いを差配するだけでよいご身分なのだ。当然であろうな。


「おおっ、焼きそばでございますか。間に合って良かった」


「アハハ、遅れてもちゃんと出来たてを出してあげるよ」


 昼は焼きそばか。これがまた美味いのだ。秘伝のタレは、八屋などの久遠家で出しておる飯屋や宿屋に与える以外は売っておらぬ品だ。一度だけ明の商人に売ったらしいが、法外な値であったと聞く。


 具はイカが入っておるな。柔らかくてタレが絡むと美味い。


「このきゅうりも美味いな」


 大殿が気に入られたのは、きゅうりを塩で一日ほど漬けたものだ。久遠家では夏場によく食べるものだ。


 確かに、さっぱりしていてちょうどよい。うむ、もう少しもらおうか。




Side:久遠一馬


 お昼を食べて少し休憩する。何気にお市ちゃんが我が家のごとく過ごしているのが凄いなって思う。オレもまだ慣れていないのに。


 午後はみんなと港の視察から始めることになった。港の検疫を抜けたすぐ先には、柱と屋根だけ設置してある市場がある。その賑わいに信秀さんが興味深げに見ていた。


「賑わっておるな」


 港はオレたちの船団からの荷降しで賑わっているが、降ろした荷物は倉庫に入れる。ただし一部の荷物は、港にある市場で島民に売ることになっている。


「そのままでよい。皆、いつもの通りにせよ。我々は見聞に来ただけじゃからの」


 オレたちが市場に近寄ると、人々の動きが止まり片膝をついて頭を下げることで静かとなった。当然のことなんだけど、義統さんが声を掛けると戸惑いながらも人々は立ちあがり商いを再開する。


 正直、こうして見ているだけだと、人間と擬装ロボットの区別はオレにも難しい。たぶん日本人系以外の島民はロボット兵だと思うが。


「ほう、いろいろとあるな」


「ええ、尾張の産物も評判がいいですよ」


 市場にある品物は米や麦などの穀物から、芋類や梅干しや板海苔や魚介の干物、それと尾張産の清酒とか、焼き物村の陶磁器に反物とか紙類などいろいろとある。面白いのだと畳とか、稲わらで編んだ縄とか笠とかもあるね。


 島では稲を育てていないので、稲わら製品とか重宝されるんだ。


 織田家の皆さんは、そんな光景を少し誇らしげに見ている。ウチの島で尾張の産物が買われている。その光景って嬉しいんだろうね。特にウチはいろいろと売るほうが多いから。


「タコの干物を皆、買うておりますな」


「あれ、この辺りで獲れないんですよ。なので毎回多めに買って運んでいますね」


 信安さんは人気の商品に気付いたらしい。魚介の干物とかは島にないものが割と人気なのは確かだ。


 しかしなんというか、織田家の皆さんも変わったね。ウチの本領に来て兵力とか武器ではなく、市場で売れるものを見て考えているなんて。


「ほう、紙芝居もありますな」


 そのまま市場を見ていると、市場の一角で紙芝居をしている人がいた。内容は尾張のものと同じだが、花火大会があったことなど尾張のニュースも読んでいる。


 近くでは尾張のかわら版と同じものも配っていて、多くの島民がそれを買っていた。なんかこういう光景って新鮮だな。見知ったことにしないといけないが、オレは初めて見るんだし当然だけど。


 妻たちはここを本当の故郷のようにしてくれたんだなぁ。なんというか、それを感じる。




Side:エル


「待った!」


「三度目ですよ。孫三郎様」


 梅雨の雨が降っているこの日、私は孫三郎様と囲碁をしています。


「よいではないか。頼む」


「では、これで最後でございますよ」


 孫次郎様は久遠諸島へ行けなかったことで不満を感じているのかと思ったのですが、意外にそうでもないようです。司令がいなくて困っていないかと訪ねてきてくれました。


「そろそろ着いた頃か?」


「ええ。もう着いていると思います」


「兄者や守護様が、あの島をいかに見るか楽しみであるな」


 パチッと碁石を打つと、孫三郎様は少し懐かしむような顔で呟かれました。行きたかったのは確かでしょう。といっても大殿と守護様が行かれた意味もご存知だと。相変わらず抜け目のない人です。


「狭い島と尾張は違いますよ。とはいえ互いに学ぶべきことはありますが」


「公方様の件、良かったのか? 島の位置までは教えぬのであろうが、下手をすると騒動となるぞ」


 碁盤を眺めながら孫三郎様が懸念を口にしました。やはり公方様のことですか。


「懸念というのならば、もう手遅れです。斯波も織田もすでに足利の世と別のことをしていることをご理解されておりますので。当家の本領は船がなければ攻められません。むしろ影響は尾張のほうがあるでしょう」


「日ノ本を治めるべき御方がこちらのやることを見て、いかに考えておられるのか。今はよいかもしれぬが、心変わりでもすれば……」


 孫三郎様はあまり菊丸殿と会ったことがない分、懸念が勝っているようですね。まあ私も懸念がないわけではありませんが。


「いずれにしても敵となることはあり得ます。ならば信じてみるのも一興かと」


 司令は人の縁で世の中が動くことに重きを置いています。必ずしも最善ではないことも必ずや意味のあることだと考えているのです。


「信じるか。そなたらの恐ろしいところだな。神仏すら信じられぬこの世で、そなたらならば何故か信じてもよいと思えてしまう。とはいえ、危ういということは忘れるなよ。公方様おひとりの考えで世が治まるのならば、とっくに戦乱は終わっておるわ」


「はい。備えはしておりますよ、着々と」


 うふふ、心配されてしまいましたね。でも、こちらもその懸念は十分承知しています。リアルにおいてはリスクのない選択など存在しないのですから。


 奇策や謀ばかりが策ではないのですよ。孫三郎様。


 

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