第10話 自室とロシアっ子
翌々日、日曜日の正午過ぎ。
暖かな日差しを浴び、休日のゆったりとした空気を感じながらたくさんの木に囲まれたベンチで休日の読書を堪能する。
「おいこらまてやぁ!」
「いやーきこえまセーン」
近くを子供たちが走り回っているようだが気にしない。読書に集中する。
「返せやごらぁ!」
「これは私のものデス!」
近くで盗人でも現れたのだろうか、やけに騒がしい。けれど、読書に集中する。
「こうなったら、力づくでも……はっ!」
──びちゃびちゃびちゃー
水風船でも破れたのだろうか、ぱんぱんに膨らんだ何かが破裂し、激しく飛び散る水滴の音がする。
それでも読書に集中……できるわけねぇだろうがぁぁぁぁぁぁ!
僕は読んでいた文庫本をテーブルに叩きつけるように置く。
「何があったんだ?ってあっーー!お前らぁ、食べ物を粗末にするなぁぁぁー!」
「「ご、ご、ごめんなさい!(サイ)」」
そこには琴音とサンドラが頭を下げ、許しを請う姿があった。
視界に広がるのは休日ののどかな雰囲気の公園──などではなくて、見慣れた僕の自室だった。
えっ、さっきと言ってる事が違うって?
じゃあもう全部腹を割って話すよ。
さっきでてきた「たくさんの木」「ベンチ」「子供たち」「水風船」っていうのは僕が優雅に大切な休日を満喫するための自己暗示でした。因みに「積み上げられた本」「椅子」「JK×2」「トマト」っていう意味ね。
つまるところ先日の約束通り、琴音が作成している新作の参考材料を入手するため、僕とサンドラとでデートの提案を持ちかけられたのだが、どうやら僕が思っているデートとは違うらしく…
「デート(?)って言ってもどこにいくの?ショッピングモールとか?」
「阿呆かな。江戸時代にそんなものがあるはずなかろう。江戸時代のデートというと、ここに書いてあるのは…えっーと…家とかだな」
琴音は『江戸時代の秘密のラブラブデートスポット30選!(最新版)』とかいう本に目をやりながらそんな事を言う。…華の女子高生が読むような本じゃないでしょ。それ。っていうか最新版とか日々変わっていくものなの?気になる。
ツッコミどころ満載だが、口に出してしまうと琴音先生の創作意欲が削り取られてしまうかもしれないのでグッとのみこむ。担当編集もこんな感じなのかな。知らんけど。
そんなこんなで僕の家でデート(?)をすることに決まった訳だが、今やっている料理対決(?)に至るまでに起こった午前中の惨劇を見てもらいたい。
* *
「で、僕らは何をすればいいの?」
午前10時過ぎ、琴音とサンドラの二人を家まで案内した後、自室のローテーブルの向かい側に座る琴音に問いかける。
「それはこのメモ帳に書いてある通りである」
「ちょっと見せておくれよ」
「いやいや、設定を忘れたのか?この場合初々しさが必要なのである」
「そ、そうなのか…」
これから何をされるか怖すぎるが、新作の続きを見るために!と自分で喝を入れる。
「それじゃあ、取り掛かろうか」
物書きとしての自覚を伴った琴音の声が響き渡った。
「じゃあ、まずそこのベットに二人とも横たわって」
うん。
「いや、そんな距離取らなくていいから」
うん。うん。
「リラックス〜リラックス〜」
うん。うん。うん。
──「よし、じゃあキスして」
うん。うん。うん。うん。ってはぁぁぁぁぁ!?
「ちょ!?何いってるんだよ!」
「ちょ!?何いってるダヨ!」
そう(ほぼ)口を揃えて、抗議する僕ら。
言うまでもなく僕らの顔は恥じらいから真っ赤に染まっている。
「よ〜しよ〜し、その絵が欲しかった」
「それならサイショからイッテヨ…」
琴音は僕らがそう言うと知っていたように、すぐさま忙しそうにメモを取っている。
うん。やっぱすげぇわ。全部見透かされている気がして、なんか変な感じがする。
なんかあれだろうな物語を書いていく上で登場人物の心情やら動悸やらなんならを考えて内にこうゆうことをできるようになったんだろうな。
っていうかこの絵面すごいな。キスする寸前の赤面した男女二名。それをいそいそとメモする女子高生一名。
今は家に自分一人しかいない状況だけど(家にいた母親と父親は何かを察してかそぉろりそぉろりと家から出て行った。うん。違う。そうじゃない。)もし誰かに見られてたらどうなっていたか…
「ねぇ」
サンドラにくいっと服を引っ張られる。
さっきの件もあってか、なんか気恥ずかしい。
それでもなんとか『おう』と答える。
「で〜とって、こういうものなの?」
好奇心豊かな子供のように質問してくる。
質問の答えとして正しいものは何かとう〜んと、心の中で唸る。
まぁ、日本全国にいるリア充共は平気でやってそうだな。
「まぁ、そうだろうね。そういう経験ないからわからないけど…」
「じゃあぁ!ワタシがソラの初めてになったの!?うれシイ!」
…うん?うーん、なんか凄い思い違いをしてるようだけど…まぁいいか。この際サンドラの笑顔を見れたことだし。
「あははは、僕もうれしいよ」
それを言った途端にさっきの満面の喜悦の色はどこやらバッと警戒の色に変わり、両腕で自分の身体を抱きしめる。
「そらって…もしかすると、女たらし?」
適当に返事を返す癖を本気で治そうと思った。ぐすん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます