第15話 突然の来客
土曜日の朝十時。いつものように朝食を食べ終えた俺は、自分の部屋で作業をしている。
先日作成したアンケート用紙をクラスメイトに配り、十何枚か先に頂いたものを整理しているところだ。各々の予定や住んでる地域なんかを考えつつプランを立てる。それと同時進行で、教えてもらったお店についてもインターネットで調べているところだ。
「こっちは駅の近くで……成程。内装はオシャレだな。でもクラス全員ではいる分にはちょっと狭いか……?」
一件目。店内写真を見るに、四十一人が入るには狭そうなんで却下。
「でもってこっちはどうだか……って予算オーバーかな」
二件目。比較的安いプランにしても一人四千はくだらない。高校生の財布にはきついので却下。
「こっちは……何処だよここ。聞いたことねぇ場所だし。少なくとも駅の近くではないな……」
三件目。雰囲気良さそうだが場所が分からん。調べてみたら明らかに駅や学園から離れていたため却下。
なかなか求める条件全てに噛み合うものは見つからない。
単に親睦会をやるってだけなら、店にそこまでこだわる必要も無いんだろう。しかしやるならオシャレなところがいいという、堂口を初めとした女子の意見が多かったので、そういう訳にも行かない。
もしかしたらまた新しい情報をくれる可能性もあるだろうが、来るかわからないものを待つのも焦れったいか。ならば少し、自分でもなにか候補がないか調べてみようとスマホに手を伸ばしてみる。
「なんだ? 着信入ってる」
メッセージ通知が三件入っていた。まぁ今はそんなこといいかと思い、ブラウザを開こうと思った時であった。
玄関のインターホンが鳴った。こんな時間に客人なんて珍しいものだ。あでも宅配便って可能性もあるか。
凛はまだ慣れてないだろうし、母さんは買い物。那菜は部活だし俺が出る他ないみたいだな。身なりを軽く整えてから、玄関に向かうために階段を降りていった。
「はーい?」
玄関開けたらあら不思議。
「おはよう架谷くん!」
「ほんとに学園から近いじゃねーか。羨ましいなおい」
「おはよう」
「……」
サトウ……じゃなくて。橋本、堂口、谷内の三人がいた。
「何の用だ。てかその前になんで俺の家の場所知ってるんだ」
「それはー凛ちゃんから教えてもらったから」
「あぁ。そういうことね」
その後一瞬だけ沈黙が流れる。そしてハッとして、改めて三人の方を見る。
「いやそれもあるけど、何しに来た?! 来るなんて一言も聞いてないんだが」
「一応連絡は飛ばしたけど?」
堂口がそういうので、ポケットに入れてたスマホを取り出して確認してみる。もしかしてさっきのあれか?
そう思ったらその通りで。
【堂口明莉】今日桐華と神奈の三人で下見に行くのだ!
【堂口明莉】というわけで一緒に来てくれ! って凛に伝えてくれ!
堂口からのメッセージが送られてきたのが、今日の九時二十二分。
【橋本桐華】今から架谷くんの家の方に寄ってみるね!
そして橋本からのメッセージが来たのが、その十二分後だ。
「そういう連絡は昨日のうちにしてくれ……」
「元々は三人で行こうかっていう予定だったんだけど、集まってから凛ちゃんも連れていきたいって明莉ちゃんが言うから……」
「それで架谷に連絡飛ばしたけど反応がなかった」
「じゃあ架谷の家に行こうって、桐華が提案した」
「急すぎるにもほどがあるだろ」
いきなり来られても困る。もし急な案件で、家に俺らが居なかったらどうするつもりだったんだ。まぁその時ばかりは流石に諦めるか。
「呼んでくるからそこで待ってろ」
「はーい」
特に凛からは何も聞いていないので、おそらく部屋にいるだろう。そう思い、二階にある彼女の部屋に向かう。
俺の部屋の隣にある、元々は父さんの部屋であり、今は凛の部屋。そういや凛の部屋になってから入るのは初めてか。部屋のドアをノックしてから、中に向かって声を出す。
「おーい凛。いるかー」
しかし返事はない。特にどこかに行くとは聞いてないし、俺と違って真面目な凛のことだから、二度寝なんてことはないだろう。
狐は夜行性だと聞いたことはあるが、そもそも妖怪の九尾である彼女にもそれは言えるのだろうか。いやでもそうだとしたら、そもそも学校に通えないか。
もしかしたら、例の調査かもしれないが、夜を除けば黙って出ていったこともない。ならば恐らく家にいるであろう。
念の為もう一度声をかけてみる。
「おーいりーん」
呼びかけてみる。しかし反応がない。ちょっと待ってみたが、トイレから戻ってくる様子でもない。
やむを得ないが、ここは失礼して。
「入るぞー」
思い切って部屋の中に足を踏み入れることに。そして真っ先に目に飛び込んできたものは――――
立派な九本の尻尾であった。
「……」
それを見るのは初めて出会った時以来だろうか。今度は背中姿になるが、狐耳と尻尾が時折ゆらりゆらりと、風になびかれるように動いている。
そして凛の外見もそうだが、部屋の内装にもまた、目を奪われていた。床はフローリングだがそれ以外、家具なんかは全て和を感じさせるもの。木製の箪笥にテーブル。その他落ち着きのある、ちゃんとした名前の分からない木製家具が色々と置かれている。ベットは見当たらないから、布団を敷いて寝ているのだろうか。
現代高校生の部屋とは思えない落ち着いた雰囲気であるが、凛のことを考えればらしいとも言える。
思わず両方に見とれていたら、後ろ向いていた凛がこっちの方を向いた。
「「あ」」
不意に目が合ってしまった時は驚いてしまった。というか、目的を忘れるくらいに意識が吸い込まれていた。
「わわ悪ぃ!」
「こ、こっちもすみません! 気づかずに!」
着替え中を突撃してしまったわけではないが、配慮が足りなかったと。心の中で反省しております。
「すまんかった。ところで何してたんだ?」
「見ての通り、毛繕いを」
少し近づいてみると、近くにはブラシが置かれていた。
「やっぱし必要なことなのか?」
「そうですね。普段は術式で隠しているんですけど、たまにこうして手入れをしておかないといけないので……」
「そういう事か。でも大変そうだな。それだけ立派なもんが九本ともなれば……」
「ごもっともです……。ところで祐真さんはどうしてこちらに?」
「あぁそうだった」
見とれてたせいで、うっかり目的を忘れてしまうところであった。
「家に橋本たちが来てな。凛に会いたいんだと」
「そうなんですか!」
「あぁ。今、玄関で待たせてもらってる」
「なら急いで用意をしないと行けませんね……」
まずは即座に尻尾と狐耳を消す。一瞬とはたまげたなぁ。
そんでその後は着替えもあるだろうから、男の俺がここにいる訳には行かない。
「慌てなくていいからな」
それだけ言って部屋を出ていった。思いがけず、意外な一面を目の当たりにすることになった。
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