小南葉月の異世界漫遊記~だが本位じゃない
冥狼
第1話元気な老女は気付いたら異世界にいるらしい
スッキリとした目覚めのはずだった。それは何時ものようにスッキリと目覚めたはずだった・・・本人は・・・だがしかしハッキリと開いたはずの目は白んでぼやけている。
なぜに白んでいるのだ?
きょろりと周りを見渡せば見慣れた自身の部屋の中ではなくどう見ても濃霧漂う森の中である。
「何で森?夢遊病の毛は無いはずだが?知らぬ間に死んでるとかか?まぁ私もいい年だしなぁ・・・知らぬ間にぽっくり逝ってても不思議ではないな」
快活に笑いながら言うセリフでもない。
しかし・・・何でこんなところに居るのか・・・?
小南葉月は御年百歳の元気な老女である。
本人も気にしている事だが霊力も気力も溢れるせいか外見年齢がどう見積もっても20代・・・下手をすれば未成年で通る。その為孫や曾孫にはお祖母ちゃんとは呼ばれず葉月ちゃんと言われるのがちょっと悲しい。
裏の山(私有地)を元気に駆け上がり下る。それを毎日欠かさず行いそれが終われば軽く汗を流して洗濯物を洗濯機へ放り込み朝食を作り食す。
食後の一休みを挟んで洗濯を干し掃除をしてから昼食、食休みを挟んで軽く古武術を嗜み自転車で食材の買い出しへ地元商店街へ出かける。若いころは走って出かけたが年には勝てず今は自転車になった。
帰ってきたら近所に住む孫や曾孫達と遊び夕食後一休みしてから風呂に入り瞑想・・・そして眠る・・・と言うのが葉月の代わり映えのない一日のルーティンであるが・・・その日はちょっと違った。
異世界の神と言うのが目の前に現れたのだ。
「私は別の世界の神ですが小南葉月さん貴女にお願いがあってまいりました。貴女に私の世界を救ってほしいのです」
「だが断る!!」
葉月は間髪入れず断った。
何が楽しくて百を超えた老女である自分が世界を救いに異世界へ行かねばならんのだと・・・。
「お願いします。貴女以上に条件に合う人がいないんです!!」
泣きながら縋りついてくるのがうっとおしい。ただでさえ土地神やらあやかしやらが何かあると泣きついて来て忙しいというのに何が楽しくて異世界まで面倒見なければならんのだと腹が立つ。
私以外にも条件に合う若人だってたくさんいるだろう。
こんな幼気な老女を頼るな!と言ったところで説得力は皆無だと分かっているが老い先短い自分をまきこむな!!
「泣けばいいと思うなよ?そして不法侵入お断りだ!!」
とりあえず神と言うのなら霊力込めて掴めば何とかなるだろうと霊力を込めた拳で殴って外へ追い出して縁側の窓を閉めて鍵をかけて札を貼った。
入ってこないのを確認して更にいつもよりも強めに結界を張って眠りについたはずだ。
・・・・・・・・・・・・あぁ。あの自称神にやられたな。と理解した。周りの気が自身の良く知るものと全く違うのだ。気付かない方がおかしい。いつも騒がしい土地神の気配も感じないのだから世界自体が違うと分かった。
本当に何してくれやがる異世界神め!!
私は何時お迎えが来てもおかしくない老女だぞ?世界を救ってくれって言われても私の死ぬ方が早いだろう。短期間にサクサク救えるほどこの世界の気は悪い色んな意味で気持ちが悪い気が漂っている。
それを救ってくれって言って放置だと?何考えてんだ。
「私程度の人間なら他にもいるだろうに。連れてきて放置とかどうしろって言うんだろうね?」
ぶつぶつと文句が出ても仕方ないだろう。なんせ着の身着のままなのだ。食料もなければ手持ちの金もないこの世界の通貨がどうなのかも知らんが。寧ろこの世界の常識など知らない。なのに何の保証も説明もないのか!!
「とりあえず・・・走るか?」
現実逃避気味に毎日の日課をするべく走りだそうとしたところに待ったがかり振り返ればヤツが異世界神が笑顔で立っていた。
とりあえず一発・・・力いっぱい殴った。理不尽に連れてこられたんだからそれぐらい安いもんだろうよ!!
力いっぱい殴ったが腐っても神、復活が早かった。普通なら半日は立ち上がれないくらいの力加減だったんだがな・・・コレはもう少し霊力込めてもうちょっと力いっぱい殴っても大丈夫かもしれん。
「ちょっと酷いですよ小南葉月さん。意識ない間に無理やり連れてきてしまったのは申し訳ないですが、いきなり殴る事は無いじゃないですか。そして何気に物騒な事考えてませんか?」
「何、そんな事は考えてないが・・・拉致してきたというのは理解しているんだな?じゃぁ問うが私が適任と言っていたが私くらいの人間なぞ他にもたくさんいるだろう?何故私なんだ?私はもう何時お迎えが来てもおかしくない老女だぞ?見た目が若く見えようと誰が何と言おうと私は齢100歳の老女だぞ?」
「それは分かってます・・・それに能力はここに来るまでにちょこっと弄って貴女の最盛期である20代に戻してますから安心してください!!」
「安心できねぇわ!!何勝手な事してるんだい!?」
「その方が安心でしょう?それに見た目全く変わってませんから大丈夫ですよ?」
「何だい私が全く成長してないみたいないい方は!!分かっちゃいるけどイラっとするねぇ!」
「あ、それは申し訳ありません。ですが内面は年齢通りですよ?」
「それはそれでムカつくねぇ。それはいいが私に何させようってんだい?話によってはもう2,3回殴らせてもらうよ?霊力をめいいっぱい込めた拳でね!!」
冷や汗をかきつつスッと目を逸らす異世界神にいい話ではないと直感した。
「おい。目を逸らすな!!こっちを見てちゃんと話せ。話位は聞いてやるから、引き受けるかは別だがな!」
「ちょっと待ってください。引き受けてはくださらないんですか?!」
「ふ・・・拉致誘拐犯のお願いを何で素直に聞いてやらなきゃならないんだい?寧ろ話を聞いてやるだけ親切だろう?」
自分はお人好しでもない割と身内以外どうでもいいと思っている。好きで外見年齢が不祥な訳じゃない。自分だって旦那や子供たちと同じように年を重ねた姿になりたいが如何せ気力やら霊力やらがとんでもなく高かったせいかある一定気を過ぎると成長が止まったように外見が変わらなくなった。それに気づいた時は喜ぶよりも落ち込んだ。
そして思い出したのはひ祖母が自分と同じだったという事だ。彼女もいろいろ苦労したようだ。だが結構強かで逞しかった・・・のを序に思い出した。周りの人間の色んなものをへし折っていた人間やら神だったりあやかしだったり色んな種族の色んなものをへし折っていた。思い出したら不味いと思い直して心の思い出の小箱に入れて鍵をかけた・・・閑話休題。
「とりあえず理由を言え、話はそれからだ」
「はい。ではお話させていただきますね」
ぺしょりと垂れた耳が見えるのは気のせいだろうか?ぺしょりと足れた尻尾が見えるのは気のせいか?これ本当に神なのか?と疑問がわいたがそれは今は置いておくことにした。話が進まないからな。
「この世界なのですが・・・澱み・・・穢れが酷く蔓延してきてしまっているのです。その澱みのせいでここ数十年穢れを祓える巫女・神子が生まれなくなってしまっているのです。私も色々としましたがこのままでは一度この世界を滅ぼさねばなりませんが・・・それを私は望みません。なので葉月さんにこの世界の澱みを祓っていただきたいのです。そうすればこの地に力が戻りまた神子が生まれてきます。ですからお願いですこの世界を救てください」
ガバリとスライディング土下座を繰り出した神を見下ろしてしばし考える。
確かにこの辺りの空気が悪い。粘ついてるというかドロッとしてるというかとにかく気持ち悪いそして何よりも臭い腐りきった臭気が漂っている・・・おそらく要らない何かが在りそうだ。祓えば一時的には良くはなるが、それがある限りいくら祓おうがこの澱みは解消されないだろうという事が嫌でも分かる分かりたくもないがな。
しかし・・・スライディング土下座・・・土下座文化は異世界でも共通なのだろうか?と関係のない事を考えてしまうのは許してほしい。
ただ・・・この件は受けるしかないと本能の部分で感じた。
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