ぼくの話⑨
ピンポーン
家のチャイムが軽快に鳴る音がした。
それだけならばあまり気にしないのだけれど、今回はチャイムが鳴った後に母親の話し声と、誰か若い男の人が話す声、そして家の中に入ってくる音がした。
来客があるのは久しぶりだ。それに、父親の知り合いでも母親の知り合いでも無さそうな若い男の声。そいつが自分の家に何の用なのか…まさか母さんが、不倫…!?
ドキドキと逸る心臓を落ち着け、ドアを少し開いて外の様子を伺う…階段を上がってくる?
えっ!俺の部屋に向かってくるのか!?
どうしようどうしようと頭の中で慌ててはいるが、慌てたところでどうにか出来るはずもなく非情にもドアは叩かれてしまった。
「優也、ちょっと話があるんだけど。」
「初めまして。今度から優也君の勉強をみることになりました、家庭教師の上田歩です。よろしくね。」
茶色く染めた髪に人好きのしそうな爽やかな笑顔、細身でスーツ姿も決まっている。なんとなく恨めしく思ってじっとりと見つめていると、右手を差し出された。
…というか、今なんと言った?
「家庭教師…?」
差し出された右手には気付かないふりをして母親の方を見る。目の端で右手が動くのがわかったけれど、それも知らないふりをした。
「そうよ。家庭教師。この前の話の後にね、通信制にしろ定時制にしろ通いきるためには中学までの知識が必要だろうってことになってね。だから、お父さんの知り合いに先生をやってる人がいて、その人に紹介してもらったのよ。」
「へぇ…。」
ならこの人、先生なのか。
「でも、通信制は学力はみないんでしょ?それに、定時制だって何十年も前に中学を卒業した人でも受かって卒業してるし…。」
「入れても出れなきゃ意味無いでしょ。何十年も前に中学を卒業したって人も、ちゃんと中学までは出てるんだから中学校の内容を学んでるのよ。それに、学校に行くって言ってるのに今から勉強したくないっていうのはどういうことなの?高校、行きたいんでしょ。」
「……。」
それを言われるとぐぅのねも出なくなってしまう。元々、学校の成績は中くらいでとても頭が良いといえるような子供ではなかった。そのため、勉強に対しては少し苦手意識がある…。でも、高校に行くためには必要なこと、これはやらなければならないこと。
定時制に通うための理由はまだ説明できていないけれど、せっかく両親が高校に行くことを許可してくれているのだ。反対することは無いだろう。
「分かった。勉強、やる。」
僕の返答を聞いた時に、上田先生はにっこりと微笑んだ気がした。
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