ぼくの話

あれはいつの事だったのだろうか。

『ぼくのしょうらいの夢。ぼくのしょうらいの夢は、ロボットを作る人になることです。なぜかというと、ぼくはプラモデルを作ったり、ラジコンを作って動かしたりすることが大すきだからです。なので、大きくなったら、どんな重いものでもすぐに運べるようなロボットを作ってみんなを助けたいです。』

いつの時だったかこんな夢を語っていた気がする。

あぁ、そうだ。この夢は僕が4年生の時の二分の一成人式で書いた作文だ。国語の授業で皆が将来の夢の作文を書いて、参観日に親の前で発表したんだ。

女の子は「幼稚園の先生」とか「看護師」が多くて、僕ら男子は気恥しさからかその時流行ってた漫画の主人公だったり、「金持ち」とか「ヒモ」とか笑いを狙いにいくものを書いている奴が多かった。流石に先生もそんな作文を親の前で読んでもらう訳にはいかなくて、男子の中でちゃんとした職業を書いていた僕ともう1人を選んで発表させた。

田舎の小学校だから、1学年1クラスで人数も30人に満たない。親を合わせても40数人しかいない参観日だったけれど、僕にとってはこれ以上無いほどの大舞台で。

あの時の光景は今でも思い出せる。親が見に来ているからいつもより静まり返った教室内。先生から名前を呼ばれると、80数個の視線が僕を突き刺し、僕は事前に知らされていたにも関わらず狼狽えてしまった。

自分の席から教壇までの距離はたった数メートルなのに、あの時はやけに長く感じた。一つ一つ動く度に可笑しい所はないか不安になって、作文を読んでいる時の記憶なんて緊張しすぎてもう覚えていない。

でも、読み終えた時に伺うように見た母親の顔が微笑んでいたのとみんなの拍手で僕は無事やり切ったことを感じた。

気恥しさと達成感と自信が入り交じったあの高揚感は、知らず知らずのうちに僕の口角を上げ、参観日なんて案外悪いものじゃないかも、なんて思った。

家に帰って、父親が帰ってきた時にも母親が手放しで褒めるから「もう恥ずかしいよ。」ってちょっと怒ったんだっけ。


なんで、今更こんな事を思い出したんだろう。そうだ、この前近くの高校で卒業式があって、楽しそうな卒業生の声が聞こえたからだ。

5月には運動会があって、最近流行りの曲と声援、放送が聞こえてきて。10月も何か行事があるようでたくさんの人の声が聞こえた。

喜びと悲しみと、青春がつまった学び舎。


僕は、そこに行きたい。


そう決心したのは、僕が産まれてから30回目の春が訪れようとしている時だった。

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