パワハラ勇者の経験値を全て稼いでいた《ポイント・エージェンタ》は追放されてしまう～俺が居ないとレベル１になるけど本当に大丈夫？スキルが覚醒して経験値【１億倍】なのでＳ級魔法もスキルも取り放題～

第81話 絶対強者

　弓の勇者に強制転移させられた俺、レオン、メイは「最後の試練」同様の広さを持つ空間で斧の勇者と対峙していた。

「アルスにあん時の女っ！　そしてザコ勇者じゃねェかっ！　オマエ等全員オレから逃げられると思うなよっ！」

　巨大な斧を背負っているこの勇者はレオン曰く「勇者シリーズ」の中で最も最強。

　そして彼は恐らく全盛期の力を取り戻している。

　斧の勇者は空間全体を揺らすような尋常じゃない燃え盛る殺気を放っていたからだ。

「俺達はもう引き返せないんですっ！　だから貴方はここにいるみんなで倒させてもらいますっ！」

　「聖剣アロンダイト」の剣先を斧の勇者に向ける俺。

　しかし、格下の実力である俺の覚悟が気に食わなかったのか、斧の勇者はその場で吠え出す。

「馬鹿がッ！　偉そうな口、利ィてんじゃねェッッ！」

　言うが早いか、飢えた獣の如く急接近する斧の勇者。

　速いッッ！

　「身体強化」かっ……！？

「先ずはっっ……！　あん時のお返しだっ！！」

　前回の戦い同様、拳を繰り出す斧の勇者。

　この一撃は俺かレオン、どちらかに向かうものだと予想していた。

　以前の戦いで彼は、メイへの攻撃に幾ばくかの猶予を与えたからだ。

　しかし……。

　そんな甘い考えを持ってしまったのが、一番のミスだった。

　斧の勇者は俺に拳を向けていたが、命中直前で軌道を変えて攻撃を逸らす。

　彼の真の狙いである人物に拳が命中した瞬間、バギャッッ！と破壊音が空間に響き渡っていた。

「……ッッ！！？？」

「メイ――――ッッ！？」

「オイ、メイッ！？」

　「最後の試練」と同じ仕組みをしている空間。

　殴られたメイは一瞬にして俺達の前から姿を消していた。

　しかし、斧の勇者は今の一撃に納得がいかなかったのか、不満げに舌打ちをする。

「チッ……。【聖女】の『祈り』スキルでHP１残りやがったか……。どうりで手ごたえがねェ」

　ジッと自身の拳を眺める斧の勇者に俺は戦慄する。

　メイのユニークスキルで現在彼女は生存しているものの、本来は絶命していた一撃だったということかっ！？

　俺は即座に斧の勇者から距離を取り、「乱撃」でメイがいると思われる場所に「ポイント・エージェンタ」を使用する。

　俺が床に手を付いていると、傍に駆け寄ってくるレオン。

「生きているのか？　アイツは？」

「レベルが上がった反応はあるから最低限は大丈夫だと思う！　だけど念の為彼女の元に向かわないとっ！」

「いや、駄目だ。アイツが伸びているだけなら放っておけ。これ以上、目の前で誰かに死なれるのは御免だ」

「レオン……」

　確かに今は彼の言うとおりかもしれない。

　斧の勇者にメイが集中攻撃されれば、俺達二人でも彼女を守れるか不安だからだ。

　それに……。

　彼女はもしかしたら今の攻撃から、恐怖で戦えないかもしれない可能性もあった……。

「カカカッ！　ザコ勇者の言うとおりだなっ！　次あの女が帰ってきたらオマエ等が想像できないような殺し方をしてやるよっ！」

「フン。貴様がどうしようもない下種で安心した。そうとなれば、こちらも遠慮なく戦える」

　レオンの発言に苛立ちを感じたのか、怒りを露わにする斧の勇者。

「荷物持ちにもなんねーザコがッッ！　テメェ等まとめて死ねやッッ！」

　即座に斧の勇者は両腕を天に上げるが、俺は違和感を覚える。

　彼がこの距離から攻撃をしてきた記憶はないからだ。

　まさか、前回の戦いでお互いが手の内を明かしたと思っていたが、そうではないのか……？

　俺は斧の勇者から距離をとった状態にもかかわらず「聖剣アロンダイト」をしっかりと構えるが、この判断は正解だった。

「――――気炎拳――――！」

　燃える熱いオーラを纏った彼の拳が、凄まじい速度で俺達に襲い掛かってきたからだ。

　やっぱりこの距離での攻撃っ！？

　斧の勇者は間接での攻撃方法もあったのか！？

　剣と拳がぶつかった瞬間、俺はズサリと余りの威力に強制的に後退させられる。

　くっ……！重いッ！

　目の前で拳を振り下ろされているのかと錯覚するような一撃。

　だけど俺は「聖剣アロンダイト」を手に入れただけでなく、数々の死闘を乗り越えて強くなったんだ！

　前回とは何もかもが違うっ！

　全身の筋肉を使ってこの拳を斬るぞ！

　そして……。

　俺とレオンは同時にスパッッと拳を両断することが出来ていた。

　スキルを発動し、満足した表情で静止していた斧の勇者だったが、「気炎拳」を完全に防いだことで、彼はギロリと俺達を睨む。確実に俺達を殺せると思っていたが、それを裏切られてしまったからだろう。

「アア？　オレの拳を斬っただと？　フザケンなっ！　んなことありえるワケねェだろがっ！」

　再度「身体強化」で俺達の元へ一気に加速する斧の勇者。

　彼のありえない威力の拳は俺に振り下ろされる。

　しかし、俺は彼の攻撃を直前で避け、聖剣でピシッと首を斬っていた。

　傷が浅いかッッ……！

　だけど……。

　前回より遥かに戦えるっ！！

　その後も斧の勇者の猛攻撃が繰り出されるかと思いきや、攻撃を中断する彼。

　勇者は肩を揺らしながら、その場で静かに笑い声を漏らし始めていた。

「くくくく。アルス、やっぱりオマエおもしれェなあっ！　俺にダメージを与えられるようになったじゃねェか！」

　そう言い終えたところで、彼の表情からは突然フッと笑みが消える。

「……っとでも言うと思ったかッッ！

　ザケンじゃねェッ！　テメェ等がこのオレを倒すなんざ１００年経っても叶わねェよ！」

　彼はギラりと背負っていた斧を片手で取り出す。

　……ッ！！

　遂にあの斧が出てきたか！

「テメェ等の希望ってやつはこの斧でズタズタにしてやるッッ！」

　速いッ！？

　再度俺に襲い掛かってくる斧の勇者だが、速度は今までとは比にならないものになっていた。

　さっきのが全力じゃなかったのか！？

　俺は両目にありったけの「身体強化」を発動し、躱すことだけに深く集中する。

　躱せっ……！

　避けることだけに集中するんだっっ！！

　最高の攻撃力を誇るあの斧をまともに受けてしまえば、その時点で一巻の終わりだからだ。

「おらァ！」

　体を真っ二つにする一撃……。

　しかし、俺は間一髪で避けることに成功していた。

　俺が斧の勇者の攻撃を回避したと同時にレオンは横なぎに「エクスカリバー」を払う。

「って～～～なぁ、オイッッ！！」

　躱せたっ！

　通用する！

　戦えるッ！

　俺達二人は敵一人を相手にしている以上、どちらか一人が必ず隙をつける。

　どちらかがあの最強の斧の勇者を追い詰めることが出来るのだ。

　しかし、これは俺かレオンのどちらかが、彼の攻撃を躱し、耐え、やり過ごし続けるという常軌を逸した行動を連続して行わないといけない条件があるが……。

　それに、やはりこの斧の勇者は攻撃力だけでなく防御面も完璧だ。

　「聖剣アロンダイト」をもってしても、彼の体力の底が見えないからだ。

　そんな状況で俺達は斧の勇者に挑まないといけなかったが、今一つ斬りこめない剣に焦りを感じ始めていた。

　この極限状態……。

　いつまで耐えれば良いんだっ！？

　長くはもたないぞっ！

　幾度となく剣を振り下ろし、突きを放ち続けた俺とレオン。

　しかし、レオンはこれ以上この戦術を続けるのは埒が明かないと判断したのか、こちらから仕掛ける作戦を決行する。

「アルス離れろッ！」

「ああっ！」

　レオンからの指示があった瞬間、俺は一気に斧の勇者から距離を取る。

「――――ダークスフィア――――！」

「――――ダークスフィア――――！」

　斧の勇者に向かって放たれる二つの闇の魔弾。

　しかし、彼はレオンの攻撃を無意味だと判断したのか、俺達に一喝する。

「馬鹿がッ！　オレに魔法なんざ効くワケねェだろうがっっ！」

　斧を一振りする勇者だが、レオンの攻撃は効果抜群だった。

　「ダークスフィア」を両断した瞬間、魔法からドンッッ！と爆発が起こったからだ。

「ウガーーーッッ！！！？？？」

「フン。どうした？　効果覿面（てきめん）に見えるが？」

「テメェはオレが絶対ブッ殺すッッ！！」

　ズギャッッと床を蹴って一直線に襲い掛かる斧の勇者。

　レオンは剣を構え、彼を正面に見据えていたが、瞬間、チラッと俺の方に目をやっていた。

　どうやら「最後の試練」同様、この隙を利用して俺にとどめを刺せというメッセージなのだろう。

　これは魔王メリッサ戦に取っておきたかったが、状況が状況だ。

　俺は「ウェポンボックス」から「魔槍ルーン」を取り出し、ユニークスキルを発動する。

「――――ポイント・エージェンタ（真）――――！」

　「魔槍ルーン」はこれまで使用してきた武器と違って「ポイント・エージェンタ（真）」が使える。

　躊躇無しに槍スキルの奥義を斧の勇者に発動しようとした俺。

　しかし、怒りで我を忘れていた彼は【勇者】の第六感が働いたのか、すぐさまこちらへピクリと警戒を向けていた。

「ハッ！　俺も舐められたもんだなアアッ！」

　武器を変えた俺にそう吐き捨てる斧の勇者。

　彼には前回の戦いで、俺の手の内は殆ど明かしてしまっている。

　だけど……。

　前回と一つだけ違うスキルがある。

「――――グングニル――――！」

「なっ……。何イイイッッ！！？？」

　突如として放たれる最強の一撃。

　斧の勇者に向かって一直線に伸びる「魔槍ルーン」は「最後の試練」にいた最強のアリシアも倒した。彼に通用しないはずがない。

　俺の奥義に焦りを感じたのか、彼の巨大な斧からは光が集まる。

　斧の勇者は即座に切り札を発動していた。

「――――ビッグバンスマッシュ――――！」

　渾身の力で斧を振り下ろした勇者だが、床をズズズと後退させられる。

「ぐがっ……ぎぎぎぎぎッッッ……！！」

「貫け――――ッッ！！」

　俺の想いの乗った「魔槍ルーン」は勇者の切り札をものともせず、ピシッ！と彼の武器から悲鳴が上がっていた。

「なっ……なんだとオオオオオオッッ！！」

「ヨシッ……！　やったぞアルス！」

　斧の勇者が装備していた巨大な斧が破壊され、喜びを見せるレオン。

　しかし……。

　咆哮を上げ、悔しさを露にしていた斧の勇者はニッと笑っていた。

「なっ……！？」

「オイ……嘘だろ」

　呟きを漏らすレオンに俺も彼同様表情はサアアと青ざめていく。

　ま……。

　まさか……。

　まだ斧の勇者には奥の手が……。

　そして……。

　俺達の嫌な予感は的中していた。

「――――裏・ウェポンボックス――――！」

　破壊された巨大な斧と入れ替わるようにして突如現れる金色の光を放つ柄の短いハンマー。

「な、何だあの武器はっ！？」

　見たことのない武器に驚きを隠せなくなった俺に、レオンは啞然とした表情で呟く。

「ミョルニル……。初めて見た」

「ミョルニルって……伝説の武器じゃないか……！？」

　なら……。

　俺の投擲した「魔槍ルーン」はどうなるんだ……？

　俺は祈るようにして槍の勇者からもらった武器を眺めていると、斧の勇者は大声で見たことのないスキルを叫ぶ。

「――――打ち砕く道の果て（ナグルファル）――――！」

　ズドンッ！と雷鳴のような音が響き、俺は何が起こったのか理解が追い付かなくなる。

　魔王メリッサ戦に取っておいた奥義。

　俺の投擲した「魔槍ルーン」の「グングニル」は斧の勇者によって完全に相殺されていたからだ。