第62話 再び、神獣の里へ
槍の勇者との戦闘を終え、俺達は「神獣の里」に到着していた。
門番たちは俺と神獣石モードのネネの存在に気づくや否や、驚き顔を浮かべる。
「ネネ様とアルス様!」
「帰って来られたのですかっ!」
「うむ。また帰ってきたぞ!」
門番たちに目的を伝えるネネをぼんやり眺めていると、傍にいたメイが話しかけてくる。
「大丈夫? アルス」
心配そうに俺の顔を覗き込んでくる彼女。
「あ、ああ……。平気だよ。ありがとうメイ」
実は俺は先程の槍の勇者との戦いで、まだ気持ちが整理できていないでいた。
「勇者シリーズ」が戦いを挑んできた場合、俺達は全力で相手にぶつからないといけない。槍の勇者曰く、他の勇者は一筋縄ではいかないからだ。
正直言って今後も他の勇者との戦いが予想される以上、生き延びることができるのか、精神が最後までもつのか不安はある。
が、今はパーティメンバーであるメイとネネを不安にさせたくない。
俺は気持ちを切り替えて、メイに笑顔を向ける。
「それより、メイ。『神獣の里』は初めてだったよね?」
「そうよ。来れることならもっと早く来たかったのにぃ。
それに……アンタ達、随分と有名人じゃない」
どこか悔しそうな表情を浮かべるメイ。
「あ……ああ。ネネは族長の妹なんだ」
俺はメイに前回里であったことを話していると、ネネがこちらに近づいてくる。
「入るとするかの。我があるじにメイよ」
先導をするネネの後ろを歩くかたちで、俺とメイは彼女について行く。
「へー。それにしても、ここがネネちゃんの故郷なのねー!」
里の入り口にある階段を上り終えると、メイは興味深そうに辺りを見回す。
「うむ。メイよ。魔王を倒し次第、良ければもっと案内するぞ」
「楽しみにしてるわね、ネネちゃん!」
嬉しそうに会話をする二人。
魔王を討伐し、彼女たちの願いを叶えられるよう頑張らないとな。
心の中でそう考えていると、周囲の獣人たちは俺の存在に気づくや否や、次々に声をかけてくる。
「おい、アルス様だっ!」
「アルス様ー!!」
「また、帰ってこられたのですね!」
俺は名前を呼ばれる度に軽く会釈をするが、どうもこういうのには慣れない。
「アルスって相変わらずそういうとこあるわよねー」
ニマニマしながら俺のことをからかうメイ。
「ほっといてよ。まだいまいちどう振舞っていいのか分からないんだ……」
「あるじは今のままで良いと思うぞ」
うんうんと首を縦に振るメイ。
「わたしもネネちゃんに同感だわー」
どっちなんだ……。
彼女たちの反応に困惑していると、メイが武器屋に向かっていきなり大声を出す。
どうやら何か珍しいものを発見したらしい。
「ちょっと! あそこに珍しい
店の前に駆け出す【聖女】メイ。
彼女は長い金属のグローブに目を光らせて眺めていた。
「いや……。メイが前衛で戦うことはまず無いと思うけどな……」
彼女に諭すように言い聞かせたつもりだが、メイはくわっと目を大きく開ける。
「そんなの分からないでしょ! それに、分身のほうに装着させれば、わたしと区別もしやすいしっ!」
「いや、まぁそうかもしれないけど……」
「ゴーストマリア」で分身したもう一人の彼女は現在レオン、アリシアと共にアルス村へ向かった。
が、現状メイ本人と分身を見分ける方法は無い。
彼女の言っていることは間違っていないが……。
「まぁ、我があるじよ。メイの好きにさせたら良いと思うぞ……」
「うんうん。ネネちゃんも分かっているじゃない!」
「「はぁ……」」
げんなり顔を浮かべる俺とネネ。
しかし彼女は俺達の反応を気に留めることなく、恐らく一生使う機会が訪れないと思われる装備を購入していた。
☆
メイが装備を購入した後、ネネの指示に従い、俺達は宮殿の中に案内されていた。
ここに来るのは初めてだな……。
立派な宮殿内部をキョロキョロしながら歩いていると、気づけば玉座のある部屋に辿り着く。
「妹にアルス殿、久しぶりだな! 会えて嬉しいぞ!」
族長ノノ。
彼女はネネの姉でもあり、若いながらも獣人たちのいるこの里を治めている。
彼女と再会したところで、先ず俺はパーティメンバーの聖女メイを紹介する。
そして、次に俺はこの里の現状を質問していた。
大陸中の魔物は全て二段階脅威度が上昇しており、この里にその影響が届いているのか族長に教えてもらいたかったのだ。
「魔物の脅威度が上がったことは里にいる全員が知っているよ。だけどこの里は特別な鉱石が採れるから、魔導具の文明がかなり進んでいるんだ。おかげでここの民に影響は無いよ」
彼女の説明を聞いて俺は安心する。
ネネも事前にこの里は無事だと言っていたので、心配しすぎだったのかもしれない。
「うむ。この里は問題なさそうじゃが、ノノよ。人間界のところにその魔導具を配ってはどうかの?」
「ああ。実は既に強力な魔除けを人間界の国や村へ届けさせてもらっている。こんな状況なんだ。種族の隔たりなく助け合わないとな」
「そうなんですかっ!?」
族長のノノには申し訳ないが、彼女の判断は意外だった。
これまでここにいる里の獣人たちはどこか人間を侮蔑していたように感じられたからだ。
しかし、今は他の種族と手を取り合おうとしている。
俺は彼女の判断に心が打たれていた。
「それもこれも我が主のおかげじゃの」
冗談を言うネネに、俺は再度困った顔を浮かべる。
「いや……そんなことはないと思うけど……」
俺はネネの軽口を否定するも、ノノは嬉しそうに説明し始める。
「いいや。我が里がここまでこれたのはアルス殿のおかげだよ。あの時、君が魔王軍の手からこの里を守ってくれたから今もこうして民がいるんだ。
それに……。私はアルス殿があれから随分と強くなったことが分かるよ。もう魔王を倒せるのは大陸中を探しても君しかいないだろう」
「そ、そうですか……」
そう言ってもらえると、昔この里で俺とアリシアが経験した苦い思い出は無駄ではなかったのかもしれないな……。今、この里は人間が訪れても入り口で門前払いをされるということは無いのだろう。
「それより、ネネ。アルス殿と聖女殿でここに来たのには何かわけがあるのか?」
ノノの質問をきっかけに、俺達は本題に入り始める。
まず俺はここにきた目的を手短にノノに説明した。
魔王メリッサの放つ「死のオーラ」を克服する手がかりが無いかノノに尋ねるが、彼女は微妙な表情を浮かべていた。
「『死のオーラ』か……。すまないが、聞いたことが無いな……」
「そ、そんな……」
「わざわざここまで来た意味がないじゃない……」
この里に何かあると踏んで足を運んだが、族長の彼女が知らないとなれば……。
ノノの説明に落ち込む俺だったが、彼女はすぐさま追加で情報を付け加える。
「有益な情報を提供できなくて申し訳ない……。役に立つかは分からないが、資料室に足を運んでみるのはどうだ?」
「資料室?」
「ああ。この宮殿の隣に、里の歴史などがまとめられた建物があるんだ。ひょっとすると何か新しい情報が出てくるかもしれない」
「そんな建物。俺達が入っても良いんですか?」
「勿論だよ。最大限の協力は惜しまないつもりだ」
「うむ。確かにノノの言う通りじゃな。そうと決まれば、あるじにメイよ。今すぐ資料室に向かうぞ」
再度ネネに案内されるかたちで彼女に付いて行く俺とメイ。
しばらく俺達は「死のオーラ」関する情報を集めるため、資料室で書物を必死に見てまわっていた。
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