第59話 再始動

 アリシアがレオンのパーティ加入を認めた翌日。

 支度を済ませた俺、レオン、アリシア、メイ、ネネは街に集まっていた。


 レオンのパーティ加入の件に関しては既に国王にも話をつけている。

 現状、早急に魔王メリッサを倒すには【勇者】レオンの力を借りる以外の方法が無い。

 そのことから、レオンの処罰は一時的に保留するとのことになったのだ。


「それでアルス。オマエはこれからどうするつもりだ?」


 孤児院の頃からメイ同様、幼馴染のレオン。

 俺は正直言って彼が何故改心したのか事情を全ては知らない。

 しかし、紆余曲折を経て今自分がやらないといけないことに気づいたのだろう。

 そんなレオンに俺はこれからの行動を説明する。


「ああ。ダイン副騎士団長が言うにはアルス村に『聖剣アロンダイト』を作れるかもしれない鍛冶師がいるって聞いたんだ」


「ほう? それでオマエ達は『聖剣アロンダイト』を手に入れ次第、メリッサに挑むつもりか?」


 俺は事前にダインさんから聞いた情報をレオンに説明するが、何故か彼は素直に納得しない。


「え……。その予定だったんだけど、何かおかしかったかな?」


 久しぶりに再会したレオンだが、どうも彼は俺達より魔王メリッサに関する情報を多く握っているように感じられる。


 が、彼は俺を含め、パーティメンバーに極力干渉したくないのか、殆ど口を開かないため情報共有がまだ完璧にされていなかったりするのだ。

 素直に聞き返す俺だが、レオンの態度に気に食わなかったのか、メイは声を荒げる。


「ちょっとアンタっ! 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」


「フン。言っておくが、『聖剣アロンダイト』があっても魔王メリッサに勝てるわけじゃない」


「なっ、何で!?」


 レオンの情報に俺は仰天する。

 アルス村で剣を入手次第、俺は魔王メリッサに挑むことが可能だと思っていたからだ。


「言っておくが、メリッサは『死のオーラ』という最恐のオーラを放つ。それがある限り、俺達はヤツに近づくことすらままならない」


「『死のオーラ』か……」


 どうやら仲間、剣、手段が揃っても魔王を討つことが出来ないらしい。


 新たに出てきた弊害に悩み始める俺。

 しかしそんな俺に対し、メイは再びレオンに問いただす。


「はあ? っていうか何でアンタそんなに魔王に詳しいのよ! だいたいその『死のオーラ』って本当にあるの?」


 「死のオーラ」に疑いを持つメイだが、近くにいたアリシアは何故か彼女に耳打ちを始める。

 アリシアの耳打ちが終わると、メイは呆れ顔を浮かべながら俺達に報告を始める。


「後輩ちゃんが言うにはゴミ勇者の言う通り『死のオーラ』はあるそうよ。魔天空城で実際に見たって」


 メイが発言を終えると、アリシアは再び彼女に耳打ちをする。

 すると、メイはげんなり顔で再度報告を始める。


「だから、魔王を倒すためにはクズ勇者に従って『死のオーラ』を克服する何かを探す必要があると思います。だってさ」


「「「……」」」


 俺、レオン、ネネはアリシアの不思議な行動に黙るしかなかったが、メイはその場で地団駄を踏む。


「あんったねぇっ! いちいちわたしを経由して話すの何なのっ!?」


 メイの訴えを無視し、無言でぷいとそっぽを向くアリシア。

 一応彼女はレオンのパーティ加入を認めているが、信用するにはまだ時間が必要みたいだ。

 アリシアの行動にあっけに取られていた俺だが、知りたいことがあるのでレオンに質問する。


「ね、ねえレオン……。魔王を討つには仲間、剣、手段が必要だと思うんだけど、俺達はまだ何か足りないのかな?」


「オマエの言っていることは正しい。結局のところ今俺達に必要なのは剣と『死のオーラ』を克服する方法だ。オイ、ネネ。オマエはその辺り詳しくないのか?」


 ネネに「死のオーラ」に関して問い詰めるレオン。

 実は彼女はエルト砂漠の件以降、まだ神獣石モードに変身していない。

 どうやら神獣石を使うために必要な体力がまだ回復していないようだ。


「にゃぁ……。もしかしたら『死のオーラ』についてはノノが知っているかもしれないにゃ……」


 「神獣の里」族長であり、ネネの姉でもある彼女の名前が出てきたところで、レオンはある提案をする。


「なら、決まりだな。時間も無い。アルス村に行く連中と『神獣の里』に向かう組の二パーティに別れよう」


「っていうか何でアンタが仕切るしっ!」


「死ね」


 メイとアリシアが次々に文句を言うが、俺は彼女らを制する。

 レオンの提案は間違っていないからだ。


「いや……。俺はレオンの言っていることが正しいと思うよ。これから二チームに別れて行動しよう」


「アルス様。私はこのゴミ勇者の監視をさせていただけないでしょうか?」


 今後の方針が決まったところで、アリシアは俺に提案をしてきた。

 因みに俺は今日殆ど彼女と会話をしていない。

 アリシアは俺に全く話しかけてこなくなったのだ。


 もしかしたら……。まだどこかで、昨日の件を引きずっているのかもしれないな……。


「あ、ああ……。俺はそれで良いよ」


 必要最低限の言葉を発し、すぐさま閉口するアリシア。

 俺はやはりいつもと違う彼女に違和感を覚えたが、レオンは特段気にする様子もなく続ける。


「フン。なら決まりだな。俺と剣聖がアルス村。アルスとネネは『神獣の里』に向かう」


「レオンはアルス村で良いの?」


「オマエが『神獣の里』に行けと言うなら従うが、正直言って勧めない。

 あの族長が俺と話をするとは思えないからだ。あそこに行って俺だけの打ち首で済めばいいがな」


 確かに……。

 レオンの言う通り、彼を「神獣の里」へ向かわせるのは得策ではないのかもしれないな……。


「分かったよ。それじゃあメイはどうする?」


 俺がメイにこれからの行動を尋ねると、彼女はすぐさま魔法を詠唱する。


「――――ゴーストマリア――――」


「なっ……!」


 魔天空城で見た彼女の分身が一人現れ、俺は口を大きく開けていた。


「何驚いてんのよ。わたしは【魔女】の能力も使えるわ。まっ、代償として【聖女】の防御支援系の魔法は全て使えなくなっちゃったけどね」


 うん。

 なんていうかメイらしいな……。

 だけど、彼女の能力によって、メイはどうやら両方のパーティに加わることが可能のようだ。回復専門の彼女がいるとなれば、かなり心強い。


「フン。なら決まりだな。各自、俺の『転移』スキルで行き先を指定するが良いか?」


 「神獣の里」は俺、ネネ、メイ。

 アルス村はレオン、アリシア、メイ。


 に決まり、レオンが「転移」スキルを発動しようとする。

 しかし、俺は彼のスキル発動を止めていた。

 パーティリーダーである俺には一つの課題があったからだ。


「ねえ、レオン。俺だけ『神獣の里』には自分の足で向かわせてもらえないかな?」


「どういうつもりだ?」


「『神獣の里』に辿り着くまで、俺のレベル上げをさせて欲しいんだ。勿論目的地には急いでいくから」


 魔王メリッサの能力により、この大陸の魔物は脅威度が全て二段階上昇している。

 実際、王都の騎士団全員は俺のポイント・エージェンタ使用後、各地に派遣され今も魔物討伐を行っているのだ。


 一刻も早く魔王メリッサを倒さないといけないのは分かっている。

 だけど……。

 俺がいざという時に戦えなければ、彼らの頑張りが全て無駄になり、意味がなくなってしまうのだ。


「レベル上げには賛成だが、一人で行動するのは勧めない。オマエ達は知らないだろうが『勇者シリーズ』がいつ俺達の前に現れるか分からないからだ」


「『勇者シリーズ』……。彼らのことか」


 レオンから出てきた「勇者シリーズ」という単語を呟く俺。


「何だ? アイツらを知っているのか?」


「ああ。魔天空城から降りた直後、俺は『斧の勇者』と戦ったんだ」


「……ッ!」


 俺の説明に珍しく驚愕した様子を見せるレオン。


「?」


「オマエ……よく死ななかったな……。

 『勇者シリーズ』は斧の勇者、槍の勇者、弓の勇者、魔の勇者がいるが、斧の勇者が最も強い」


 そうだったのか……。

 規格外の戦闘力を持っていた「斧の勇者」が最強なのは頷ける。


 しかしそれ以上に……。

 「勇者シリーズ」は俺とメイが会った「斧」と「魔」の勇者以外に「槍」と「弓」も存在するのか……。

 なら、どう考えても俺一人で単独行動し、レベル上げをするのは得策ではない。

 「勇者シリーズ」は自分一人では手に負えないからだ。


「レオン。なら、『神獣の里』に向かう俺、ネネ、メイは三人一緒で『転移』スキル無しで向かうよ」


「そうしろ」


 ようやくこれからの行動が決まった。

 俺達三人サイドは「神獣の里」に向かい、魔王メリッサの放つ「死のオーラ」を克服する方法を探さないといけない。


 俺とネネは目的地に向かって歩み始めようとするも、何故かメイが大声で叫ぶ。


「ちょっと待って! わたしから少しだけ良い?」


「えっ……。うん、良いよ」


 姉御肌の彼女のことだ。

 俺達に何か檄を飛ばしてくれるのだろうか?


 しかし、彼女の取った行動は俺の想像を遥かに超えていた。

 スタスタとレオンに近づくメイ。


「?」


 瞬間、メイは渾身の力でレオンをぶん殴っていたのだ。


 ドンガラガッシャァンッッッ!!


 レオンは建物近くに置いていた木箱を破壊し、そのまま家の壁までぶっ飛ばされる。


 え……ええーーっっ……。


「ホホホ! はぁースッキリしたー!」


 満足したように口に手を近づけるメイ。

 しかし俺はメイの常軌を逸した行動から彼女にドン引きしていた。

 俺だけじゃない。

 アリシアは無表情だったが、ネネは何とも言えない表情を浮かべていた。


「レオン、大丈夫っ!?」


 俺は倒れているレオンの元へ駆け寄り手を貸すも、彼は自分の力で立ち上がろうとする。


「いや、いい……。一人で立てる……」


「い、いきなり何するんだよメイっ!」


 わけが分からず俺はメイに問い詰めるが、彼女は平然と答える。


「わたしを泣かせた罰よ。罰。この前コイツとダンジョンに行ったとき、本当に頭蓋骨を握り潰そうかと思ったけど、そうしなくて良かったわー♪」


「にゃぁ……。メイの言っていることが冗談に聞こえないにゃ……」


 彼女なら本気でやりかねない……。

 メイの発言からこの場にいた全員が戦慄していた。


「まっ、過程はともかくとして、が一緒になれたんだし、その怪我治してあげるわ」


 俺とレオンの元へ近づき、回復魔法を発動しようとするメイ。

 言うまでもないが今のレオンは隻眼隻腕だ。

 俺のポイント・エージェンタでレオンは何故か回復出来なかったが、もしかしたら聖女メイなら治療が可能なのかもしれない。

 しかし、レオンは彼女の提案を突っぱねていた。


「勘違いしてんじゃねーよ、メイ! 俺はただあの孤児院を守りたいだけだ」


 そう吐き捨てたレオンは早足で、アリシア、分身したメイに近づく。


「何よアイツッ! ツンデレかっつーのっっ!」


「「「「…………」」」」


 怒りを露にするメイだが、彼女を除いて全員が沈黙していた。


「えっ、なに、この空気!? っていうかなんでみんな黙るのよっ!」


 俺はメイからすぐさま目を逸らし、考える。


 レオンは人一倍強い目的で俺達と行動を共にしている。

 俺がレオンに追放されてから二人がどういうやり取りをしていたのか知らないが、回復目当てで帰ってきたと思われたくないのだろう。


「オイ、アルス……。いい加減行くからな」


 流石にレオンもうんざりしたのか、「転移」スキルを発動し始める。

 俺は彼が「転移」スキルを発動し終わる前に、アリシアの傍に近づいていた。


「アリシア。レオンと出来るだけ仲良くしてね」


「可能な限り……善処はします。アルス様……」


 彼女がそう言い終えると、レオン、アリシア、もう一人のメイは完全にこの場から姿を消していた。

 俺達もここでうかうかしている場合じゃない。

 俺は残ったネネとメイに顔を向ける。


「行こうか『神獣の里』へ!」


「にゃぁ!」


「そうねっ!」


 彼女らの力強い返事をきっかけに、俺達は「神獣の里」へと向かっていた。

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