第二章【賢者】ネネ編

第14話 【SIDE勇者】里で歓迎され、魔王軍討伐の総指揮官に名乗りを上げてしまう(前編)

 俺は重い身体を引きずり、ドカドカとギルドの中へ入っていく。


 室内を見渡し女共を探していると、メイとネネが仲良く談笑している姿が目に入る。


「オイ、勇者様が来てやったぞ!」


 俺は二人の前に立ち、腕を組むと、彼女らは心底嫌そうな顔を浮かべる。


 全く。この俺が来てやったのに失礼な奴らだ。


「はぁ……。一瞬誰か分からなかったわ」


「にゃあ。確かにレオンの装備が一式変わってるにゃ」


 俺の新しい姿を見てもっと喜んでくれてもいいのに、相変わらず肩透かしを受ける。


 そう。俺は彼女らの言う通り、装備を全て新調している。


「ハハッ! まぁ、この輝きを見て気がつかないわけが無いよな!

 この両手剣は攻撃力が327上がるうえに、鎧は守備力が150も上昇する!

 全財産費やした価値があると思わないか?」


 実際には全財産どころではなく、多額の借金をしてまで入手したのだがまぁ良い。俺にはもう後が無いのだ。 


 装備を自慢した俺に二人は目を輝かせるかと思いきや、彼女らは微妙な表情をしている。


「大方、昨日剣聖とトラブって武器を変えざるを得ない状況まで怪我したんでしょ?

 だいたい、アンタ両手剣なんか、まともに扱えるワケないのに」


「ぐっ……」


 メイの発言に俺は歯を嚙み締める。


 勘の良い奴め……。


 確かに彼女の言っていることは正しい。俺は今まで両手剣を扱った試しが無い。

 それもこれも、全てあの忌々しい剣聖のせいだ。

 昨日、彼女に両手を刺されたせいで、俺は殆ど剣を握ることが出来なくなっていた。


 結果、多少素早さが落ちても、片手剣より威力重視の両手剣に頼るしか今の俺には攻撃手段がないのだ。


 ああ、全く、あのクソ剣聖が……!今思い出すだけでも腹が立つ。

 それに、鬱陶しい女は何もあの剣聖だけではない。


「おい、【聖女】メイ! だいたい、お前が治療すれば全て解決するだろ! いい加減俺を回復してくれたらどうなんだ!?」


「アンタこそ、さっさとアルスを連れ戻しなさいよ。治療はその後」


 フンと鼻を鳴らし、そっぽを向く彼女に俺は殺気立つ。


 ……ッ。この女、本当にぶち殺してェ……!


 今更アルスを勇者パーティに戻すわけがない。そこは誰が何と言おうと認めない。


 俺とメイが互いに押し黙る状態に入ると、パーティ全体が重苦しい空気に包まれる。


「にゃんというか……。アルスがいなくなってから、みんな仲良くなっていない気がするにゃ……」


「うるさいな、ネコ女が! ほら、サッサと行くぞ。ああ、因みにメイ。お前は今日来なくていいからな」


「あっそ」


 興味なさそうに頬杖をついて俺の顔を見ない彼女。


「ふっ。残念だったなメイ。これから向かう場所はどうやら人間が嫌いらしく、二人パーティしか歓迎していないらしい。そこで『神獣の里』出身のネネを使うって考えだ」


「アンタって触れるもの全員を不幸にするからネネちゃんの故郷で迷惑をかけないことね」


「ハハッ! そうか、メイ! 俺が好きで心配してくれたのか!」


 俺はメイのツンとした態度を期待したが、彼女は両手で口を押さえ、ギルドから退出していた。




 数時間後。

 俺とネネは『神獣の里』前に到着すると、獣姿の門番が視界に入る。


 気色悪い奴らだな。この里にはこんな奴らがうじゃうじゃいるのか?


 さっさと中に入れてもらうため、彼らに命令しようとするも、獣たちは何やら慌てた様子を見せる。


「ネ、ネネ様! 帰ってこられたのですか!?」


「にゃぁ。ただいまにゃ!」


 すかさず俺は眉をひそめ、ネネに耳打ちする。


「おい、ネネ。どうなっている? ないと思うが、お前はここでは結構偉かったりするのか?」


「にゃぁ……。ネネは里の族長の妹にゃ。言わにゃかったニャ?」


 ネネの発言に俺はさあぁと血の気が引く。


 オイオイオイオイオイどうなっている!?

 奴隷を購入した時はそんなこと店の奴から言われなかったぞ。


 これから俺は里の中に入るが、奴隷であることがバレたら即死刑なんじゃないのか?

 それに、俺が言わなくても、コイツ自ら暴露するリスクがある。


 口封じの為、ネネに釘を差しておくか?

 いや駄目だ。ネネはちょっと頭が残念な奴だ。

 俺が言うなと言った結果、何かの拍子でポロっと漏らす可能性がある。


 だいたい、ネネの正体が本当ならメイも連れてきて、俺と彼女の二人で里に入れたはずだ。

 畜生ッッ……!!頼れる奴がいないうえに、いきなりピンチときた。どうすればいい!?


 ネネと門番が話し合っている中、俺は一人頭を悩ませていると、どうやら彼らは里の中へ案内してくれるらしく、笑顔を向けてくる。


「さぁ、どうぞお入りください。魔王の魔の手から我々を救う勇者殿」


「い、いや。俺は……」


 里の案内を躊躇する俺にネネは首を傾げる。


「にゃぁ。顔色が悪いけど、お腹でも空いたかにゃ?」


 パーティの俺しか知らないが、この依頼を失敗すれば、聖女メイを失う。

 しかしこの里に入り、ネネへの仕打ちが表に出た場合、俺の命にかかわる。


 クソッ。もうどうにでもなれ。


 思考停止状態になった俺は結局、ネネ達について行った。

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