パワハラ勇者の経験値を全て稼いでいた《ポイント・エージェンタ》は追放されてしまう~俺が居ないとレベル1になるけど本当に大丈夫?スキルが覚醒して経験値【1億倍】なのでS級魔法もスキルも取り放題~
第9話 村を救った英雄となり、アルス村と名付けられる
第9話 村を救った英雄となり、アルス村と名付けられる
「ここは?」
見慣れない天井が視界に入り、俺は目をパチパチさせる。
「お目覚めですか!? アルス様っ!」
いきなり顔を至近距離まで近づけるアリシア。
俺は彼女を避けるようしてガバッと体を起こす。
「繫殖期は終わったの!? 村人のみんなは?」
「はい。アルス様がキングミノタウロスを倒した後、ダンジョンからは一匹も魔物が現れなくなりました。
その後、騎士団も到着したので、魔除け石の設置も完了し、村人は全員無事だそうです」
彼女の報告を聞いて、俺は安堵の溜息を漏らす。
「良かった……」
俺とアリシアがミノタウロスを全て倒しても、肝心の村人たちが魔物に対処出来なければ、それで終わっていたからだ。
誰も失わず、みんなで最後まで戦えたことに、俺は心の底からホッとする。
「村人は無事でしたが、アルス様は大丈夫なのですか!?
突然意識を失ったので、このまま一生目を覚まさないのではないかと案じておりました!」
興奮して早口でまくしたてるアリシアに俺は焦りながら彼女を制す。
「お、落ち着いて、アリシア! 俺は大丈夫だからっ!」
確かに。俺は魔法を放った直後の記憶が完全に抜けている。
初めて魔法を使うにもかかわらず、ありったけの魔力を込めて詠唱を試みたからだろう。
彼女の前で不甲斐ないところをみせてしまったな……。
いや、ダメだ。
今は自責の念に駆られてる場合じゃない。
「俺はともかく、アリシアは何ともないの? ポイントエージェンタの効果も切れて、疲労がかなり押し寄せてきてると思うんだけど……」
「お気遣いありがとうございます。
アルス様の付与能力はどうやらまだ継続中なので、体力に衰えは発生しておりません」
彼女の発言を聞いて違和感を覚える。
ポイントエージェンタの効果がまだ消えていない?
彼女は村人同様、まだ正式に俺のパーティメンバーになっていない。
にもかかわらず、効果は継続している?
もしかしたら、ユニークスキルがLv2になったおかげで、効果時間が延長されているのかもしれないな。
「それより、アルス様。村長がアルス様にお礼を言いたいそうですが、一度外に出てみませんか?」
「あ、ああ……。待たせていたら申し訳ないね。直ぐに行こうか」
俺と彼女は荷物をまとめ、急いで建物から出ていた。
☆
俺とアリシアが一歩外に出た瞬間、周囲の村人達はざわつき、一斉に姿を現し始める。
「えらいぐっすり眠ってたやないか、英雄様は!」
正面の地面に座っていた村長はスマイル顔を浮かべ、その場から立ち上がる。
「英雄?」
俺がそう呟くと、パチパチパチパチパチと村中が拍手で包まれる。
「兄ちゃん、ありがとう!」
「あんたがこの村を救ってくれたんだってな!」
「少年! でかしたぞ!」
「ええぇっっ!!」
感謝の言葉を述べる村人達に戸惑う俺だが、アリシアは何故かふふんと得意げな表情を浮かべている。
「えーっと……。村長さん。これは……」
「おいおいおい! お前さんがこの村を救ってくれたんやで! もっと誇ってくれや!」
バシンと背中を叩いてくる村長だが、俺は大きく手を横に振ることしかできない。
確かに、ミノタウロスとの戦闘を数時間に渡って行い続けたが、正直ここまでされてしまうと、何だか恥ずかしい気持ちになる。
「まぁ、ワイの村は小さいさかいに、寧ろこれぐらいのことしかできひんのやけどな。あとはこれぐらいか……」
そう言って、村長は片手に携えていた大きな布の塊を俺に突き出す。
「何ですか? これは?」
「竜のブレスに特化した、マントや」
突然出てきた装備に俺は仰天する。
ブレス耐性のマントは【勇者】レオンでさえ持っていない希少価値のある物だからだ。
売れば、金貨何枚分になるのかは想像がつかない。
「こんなもの受け取れませんよ! このマントはもっと大事に扱うべきです!」
「っだあぁっ! ワイがあげるっつったんやから、素直に受け取れや! それに、冒険者のボンやったらどっかのタイミングで使うかもしれへんやろ?」
「確かにそうかもしれませんが……。ほ、本当に良いんですか?」
「ああ、受け取ってくれ。オヤジから貰ったただの布切れなんやけどな、ちゃんと使う奴がいてくれたほうがワイとしても嬉しいんや」
そう言って、ポンと俺の両手にマントを乗せる。
「『お納めください』ってやっちゃな」
俺は村長からマントを受け取ると、アリシアがハイテンションで声をあげる。
「アルス様! 今装備してみませんか!」
「ああ、そうだね!」
貰ったマントを試しに羽織ってみると、村中から再度ワッと歓声が起こる。
「最高にお似合いです!」
何だか恥ずかしいけど、幼い頃に読んだ童話の主人公みたいで、かっこいいぞ。
「やっぱりワイの見立ては間違ってなかったな! それで、ボン。もう一個ワイからのビッグサプライズがあるんやけど、発表してええか?」
「え、ええ……。お願いします……」
「実はこの村。出来てまだ10年目なんやけどな、名前がないねん」
「は、はぁ……」
嫌な予感がする。
「だからなっ、今日からこの村の名前をアルス村って名付ける!」
「いや、流石に冗談ですよね……」
俺はアリシアに助け舟を求めようとしたが、何故か彼女は鼻息を荒くして、首を何度も縦に振っていた。
「アルス村! 良い名前です! 由来は勇者を超えた真の救世主ということでどうでしょうか?」
「おお、嬢ちゃんもたまにはええこと言うやん。それに、アルス村は20年、30年と村の繁栄、健康祈願のご利益がありそうな気がするやろ?」
「ど、どうなんですかね……」
曖昧な相槌をしていると、ガチャガチャと鎧の音を鳴らす騎士が数名駆けつけてくる。
「お取り込み中、申し訳ない。君たちがミノタウロスの繫殖期を阻止した、二人で間違いないか?」
「おう、この二人が繫殖期を止めてくれた。村長のワイが保証するで!」
「その件で国王から召集命令が下りている。至急我々に同行してもらいたい」
ミノタウロスを倒しただけなのだが、何か不味かっただろうか?
俺は一瞬表情を曇らせるも、村長が肩をポンと叩く。
「まだまだワイらの感謝が足りひんっちゅうのに、王様の命令なんやったらしゃあないな。また、いつでも顔出してくれ!」
「行きましょう。アルス様」
「ああ……」
俺とアリシアは早足で先導する騎士に付いて行く。
こうして、俺はアルス村を後にした。
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