パワハラ勇者の経験値を全て稼いでいた《ポイント・エージェンタ》は追放されてしまう~俺が居ないとレベル1になるけど本当に大丈夫?スキルが覚醒して経験値【1億倍】なのでS級魔法もスキルも取り放題~

前田氏

第一章【剣聖】アリシア編

第1話 勇者に「用済みだ!」と追放されてしまう

「おい、アルス! お前は今日限りでこのパーティをクビだ!」


 宿屋の一室に呼ばれた俺は開口一番に【勇者】レオンから暴論を吐き出されていた。


「な、何で急に!? 今まで一緒に頑張ってきたじゃないか!?」


 あまりの理不尽に反発する俺に対し、レオンは余裕そうに笑い声を上げる。


「ハッ! そんなことも分からないのか? お前のユニークスキル、【ポイント・エージェンタ】はもう用済みなんだよ!」


 幼い頃、女神から授かったユニークスキルを指摘された俺だが、まだ、レオンの言いたいことが分からないでいた。


 パーティ結成から今日に至るまで、【勇者】【聖女】【賢者】と共にこの能力で貢献してきた自信はあるからだ。


 俺の【ポイント・エージェンタ】は獲得した経験値を何十倍にも増やし、パーティメンバーに還元することが出来る。


「ちょっと待ってくれ。俺の能力がどうして用済みなんだ!? このパーティはまだまだ成長途中じゃないか!?」


「フン。『成長途中』だと?

 リーダーであるこの俺がレベル99なんだ。それにスキルも魔法も殆ど修得している。

 単体で見ても、もうとっくに俺達は伝説のSランクパーティに到達してるんだよ!」


 一瞬何を言っているのか分からず、俺は唖然とする。レオンは一つ大きな勘違いをしているからだ。


「レベルは99が上限じゃないことはレオンも知っているだろ? 今のパーティ実績だと、どう考えてもSランクはまだまだ先だ!」


「ハッ、言うじゃないか! 経験値を与えることしか出来ない落ちこぼれの癖に。

 大体、お前がこのパーティに存在できたのは幼馴染のよしみで俺が我慢してやっただけだぞ。

 寧ろ感謝して欲しいくらいだ。今日まで勇者パーティという肩書で生活を送れたことに」


 確かに俺とレオンの付き合いは孤児院での年数も加えると、もう十年以上になる。


 だけど、俺はリーダーである勇者にお情けで入れてもらえたと他人に思われないくらいに、結成から今日まで頑張ってきたつもりだ。


 だからこそ納得できない。俺は再度レオンに尋ねる。


「なあ、レオン。本当に俺を追放するのか? 俺が経験値を何十倍にも増やして全員に付与していたのは把握済みだろ?

 今後も冒険するうえで俺の能力は欠かせないと思うんだが……」


 俺の発言にレオンは眉をひそめ、声を荒げる。


「ッ……。しつこいなっ!

 お前が出ていくことはもう『絶対』なんだ! これは他のメンバーも納得している。

 『ただ、突っ立っているだけで報酬分の働きをしていない』とかな。

 何ならもっと聞きたいか? お前が如何に必要とされていないかを」


 立っているだけ、という言葉が脳内で反芻し、俺はただ床を見つめることしか出来なかった。あまりの言われ様に絶望したからだ。


 確かに俺は有用な剣スキルや魔法を覚えていない。


 だけど、チームの足を引っ張らないよう剣の素振りは毎日1000回して、最低限の戦闘力は身につけたつもりだ。


 それに、持ち前のユニークスキルで常に全員分の経験値を調整し、パーティを支えてきた。


 パーティのムードメーカーとして仲良くしてくれた【賢者】。

 ちょっとだけ気が強いけど、人一倍面倒見がいい【聖女】。


 毎日が楽しかったが、実はみんな腹の底でそんなことを考えていたのか……。

 どうやらパーティ全員が対等な関係だと思っていたのは俺だけだったらしい。


「話は終わりだな」


 レオンはその場から立ち上がり、俺に向かって手を伸ばす。


「なあ、レオン……」


「さっさとハンター証を返せよっ!」


「本当に良いのか!? これを返すと数時間以内に全員分の【ポイント・エージェンタ】の効果が消える! レベルが下がるんだぞ!」


 力説する俺だが、レオンは心底侮蔑するような目を向ける。


「フッ。ここまで来るともう哀れだな。嘘を吐いてまで俺のパーティにすがりつきたいか? 何回も言わせるな。お前はもう用済みなんだよ。今更経験値なんてこれっぽっちもいらないんだ」


 俺は無言で拳を握りしめていた。

 レオンにどれだけ説明しても聞く耳をもってくれないからだ。


 パーティの一員として頑張ってきたが、どうやらここまでらしい。


「分かった。だけど、今後魔物と戦いに挑むときはキチンと薬草や聖水といった回復アイテムを準備しておいた方が良い。

 それと、敵の強さをしっかり見極めてから戦うことも念頭に置いてくれ」


 そう言って、俺は勇者パーティの所属を証明するハンター証をレオンに返していた。


「ハハッ、忠告ご苦労! 将来俺が歴史を刻んだことで国中の話題になるが、嫉妬しないでくれよ」


 俺がいなくなることをどことなく楽しそうしているレオン。


 そんな彼に背を向け、俺はそそくさと部屋から出ていった。




 仲間の了解を得ず、独断でアルスを追放したレオン。

 彼はかつての幼馴染から助言をもらったが、勿論そんなことに耳を傾けなかった。


 アルスが抜けたことで満足している彼はまだ知らない。

 誰のおかげでパーティ全員が生存し、ここまで名声を手に入れてきたかを。


 そして彼はまだ知らない。

 ダンジョンにてレベル1になり、全てを失う地獄を。

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