第582話 ex

開いた折り戸の向こうは、車掌室だった。

向かい側が小窓。右手にデスクがあって

目の前に棚がある。

天井から赤い取っ手のロープが降りていて。


友里恵は「誰もいないね」



山岡「居たら叱られるよ・・・・折角の個室、一発やってく?」



友里恵は眉をヒソメ「やーらしいなぁ、おっさん!」と、山岡の肩をひっぱたく。


山岡は、ハハハ、と笑って「ここのデスクに腰掛けてさぁ・・・」と。



友里恵は「いーかげんにしろ!」と笑って。折り戸の向こうに山岡を閉じ込めて

扉を閉めた。




山岡は、笑って「こら、あけろ!」とアルミの扉を叩いて。


友里恵はアルミの取っ手を持って、回せないように(笑)。

でもやっぱり、山岡のほうが力は強いので、こじ開けて「こんにゃろ、これ!おじさんは怒


るよー」と言ったが

既に友里恵は逃走していた(笑)。



機関車のギアの轟音、ひゅーん・・・と、唸るように。

確かに狼の遠吠えのようだと山岡も思う。




線路を照らすライトが、暗い車内に閃光のように飛び去っていく。



それを見ていると「旅だなあ」と、山岡も・・・楽しい。


旅情、と言うのだろうか。



列車の端っこの、この辺りの窓から

誰もいない夜。


それを眺めるのが、夜行列車の楽しみだと

彼は思う。



「友里恵ちゃんが居たんで、ちょっと違う楽しい時間だったなぁ」と

微笑みながら。




デッキの床は、ゆらゆら。

機関車が引っ張っているので、尚さら。




でもまあ・・・山岡も「一発」なんて軽くは言うけれど

そんなことをするつもりもなく・・・また、したこともなかった。



理由はカンタンで・・・・まあ、日本がバブル期だったころ、ワカモノだった。

そのせいで、日本人が動物になっていくサマを

横目で見ていて・・・・


「こんな奴らと関わったら終わりだ」と

そう思っていたから、だったし・・・・



さっき、友里恵に言ったように



「なし崩しでコドモできちゃって」なんて婚姻に興味もなにもなく・・。


山岡自身が、母を養って「いかねばならない」なんて・・・メンドウなものを

背負いこんだせいもあった。



「あんなメンドーな生き物を、もう1ひき飼うなんて」とも思った。


でも・・・「友里恵ちゃんみたいなコならいいかもな(^^;」なんてふうにも思った。



あのくらい、しっかりしてれば。

家庭を全部任せられそうだし。


他人任せにしないだろうし。



なーんて・・・(^^;



旅は楽しいものだと彼、思う・・・・





逃走(笑)した友里絵は「ったくもう・・・ママに言いつけてやるんだから」とか言いながら。


14号車から、とことこ・・・


♪しかーってもらーうわぁ♪とか、歌いながら


「ま、だーりんじゃじゃないし」




アレも夜汽車の歌だったなぁ、なんて。



「誰に聞いたんだっけ・・・タマちゃんかぁ」と、思い出す。


17歳だった。


コンビニでバイトしてて。


青い制服で、白い、紙の帽子かぶって。

冬だった。



小さな、三角お屋根のコンビニで(春休みJK~、電力会社~にでてきますが(^^;)



「若かったなぁ」と、友里恵は思い出す。



コンビニのBGMが、なぜか’70sだったりして。

その時期は流行りだった。



そこのコンビニ、オリジナルのDJラジオみたいな感じで。



シュガー・ベイブの「パレード」のカバーとか。


そんなのも、タマちゃんに聞いたんだっけな・・・・。








「あ」ハタと足止めて「鉄っちゃんのママって知らないんだ、アタシ」(^^;





でもまあ、鉄っちゃんがスケベでもそんなに嫌な感じはしなかったので。



「ま、いっか・・・・。」



とっとこ、とっとこ。



仔犬みたいに歩きながら、もとの10号車に戻ろうとしている友里恵だったりして。



「結構、遠いなぁ」とか・・・・。



廊下の手摺りにつかまりながら・・・「今、何時なんだろう」と。

寝台車のカーテンは降りているので、外の景色はわからない。


「12時・・・くらいかな」とか、思いながら。



とっとこ、とっとこ。




寝台車はクリーム色の壁紙が貼られていたり、そうでなかったり。

さまざま。



それぞれに、趣があって面白い。



「めったに乗らないしねー。夜行なんて」と、友里恵はゆっくり歩きながら

カーテンが下りている寝台、空いている寝台。



それぞれ、のんびり見て回ったり。




「動いたらハラへったなぁ」とか思いながら(^^;




連想するのは食べ物のこと。



その・・・・早朝のコンビニのミニ・キッチンで


ホットサンドをあまりモノで作って食べたり。


「タマちゃんにもあげたっけなぁ」とか思いながら。



6時間経った肉まんを「ハイキ」と言って

捨てずに食べちゃったり。



同、お弁当も貰って帰って

お昼に食べたり。


「結構、おいしいバイト」とか・・・・(^^)。




毎日、あんなだったら楽しかったなあ、と



潰れてしまったコンビニのバイト・・・のことを思い出したりして。

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