第562話 #885 sonic

そのころ・・・・



パティは、中津駅で友里恵たちと別れてからのことを


由布院の家の、自分のお部屋で思い出していた。


ほんの少し、前の事だったけど。なぜか遠く感じる。


高架の、中津駅のホームは風がよく渡り

涙で濡れた頬が涼しかった。



「おい、でかい図体して泣くな」と、男みたいに言う理沙の

でも、優しい女らしい声に安らいだ、パティ。


「ごめんなさい」と、理沙に靠れていた自分に気づき、ちょっと恥かしくなる。



理沙も、日本人としては大柄な方だけど、パティはもっと大きい。


ブロンド、ふわふわ、青い瞳。なので・・・なんとなく目立つ。

列車を見送って泣くのは、今はあまり無い光景なのだろうか

結構目立ってしまった。



白いかもめ型のまるいデザインの「ソニック」で、大分に戻る事に。



やってきた車両に乗り込む。



フロアが木造で、フローリングのようで

華やかで贅沢な感じがする。

デッキの仕切りもスモークド・グラス。


客室に入ると、荷棚がカバーつきで。

椅子が大きく、革張り。



「とても豪華だ」と、理沙は言う。



「ハイ」とパティ。時々乗務しているので

なんとなく知っているけど。改めて言われるとそうかな、と思う。



今、お友達と別れたばかりだから

少し、センシティヴになっているのかもしれない。


右手で、右の髪に触れ


パティは、窓のほうへと座った。



理沙もその隣に座り・・・元々、あまりおしゃべりな方ではない理沙は

静かにしていた。

パティもそれに倣う。



ホームではアナウンスが入る。


ーーー特急ソニック34号、大分ゆき発車ですーー。


と、直裁に、簡潔にアナウンス。


列車のドアが閉じる。


ここから大分まで、この時間に乗る人は割りと多いのだろう。


車内はそこそこ乗車している。




フロアの下で金属的なインバータの音がして、力強く

列車は走り出す。



かなり強い加速だと理沙は思う。

機関車に乗りなれてはいるが、電車のそれとは

トルク感が違うなぁ、と・・・・思ったりする。



さっきまで友里恵たちと乗っていた客車は、どちらかと言うとのどかな感じ。

電車は、どちらかと言うと機械的な感じ。



機関車も機械だけれども、電車はそれに少し似ているな、と・・・。


革張りのソファのようなシートは、どちらかと言うと外国の飛行機のようで

そういえば、頭上の荷棚が蓋つきになっている辺りも、そういうイメージがある。

デッキとの仕切りがスモーク・グラスと言う辺りは、欧風な感じ。


九州は、そういえば国際的な感じがする。大陸に近いから、なのだろうか。



理沙は、運転台、というよりドライバーズ・シートに座ることを空想した。


曲面で頭上に迫る、流線型のフロント・グラス。


計器類、と言うよりもインスツルメンツ・パネルと言う方が相応しい

コンピュータ応用ディスプレイ。


マスター・コントロールもシンプルで。





いつも乗っているディーゼル機関車の、いかにも旧式な、機械らしいそれとは

大きな差異がある。



理沙の好みでは、DE10の方なのだが。







いつもの制服、機関士の、作業着のようなそれではなく

紺色のスーツ。「ゆふいんの森」とかに乗る時のそれを着て。


腕章も


運転士

DRIVER


である。




やはり革張りのシートで、白い手袋で「前方、よし。進路、日豊、下り1番!」とか・・・

こころで思う。


信号、指差呼称・・・。




制御振り子電車の885系は、カーブで

ぐい、と傾く。


先頭に乗っていると、より、そう感じる。



オートバイに乗るような、そんな感じ・・・なのだろうかと

理沙は空想した。



「さゆりちゃん」と、パティがつぶやくので


理沙は「さゆりちゃん?ああ、さっきの・・・食堂の」


理沙も、なんとなく知っている。大分駅で見かけたり。


パティは、理沙の方を見て「はい。さっき、食堂で働いていて。

これから乗務で東京まで・・・いいなぁ、夜行に乗れて」と。思い出すように。



理沙は、笑顔になって「夜行、乗りたい?」

理沙は機関士だから夜行、なんて・・・2時間交替だし、女子は深夜勤務は禁止だし。


夜通し、列車に乗っている仕事って、想像もできない。



パティは、頷いて「夜遅くまで仕事して。そのまま寝て・・・朝一番から、なんて。

楽しそう」




理沙は、そういう考え方もあるのかな、と思った。

パティも列車が好きなのだろう。そうでなければ、乗務員・・・を選ぶわけもないけれど。


「夜行って、どこで寝るんだろね」




パティは「ハイ。それは聞いたことあります。ちゃんと寝台を取ってくれるんです。

昔は・・・食堂車のテーブルの上にマット敷いて寝たとか・・・」



理沙は笑って「それは男じゃない?いくらなんでも」



急に、雰囲気が明るくなった。パティは、引き摺らないタイプ。



特急「ソニック」34号は、凄いスピードでカーブを駆け抜けていくように

乗っていると感じる。



飛行機のように車体を傾けて。


130km/hかな?

レールにかかる横力も相当だろうな・・・と、理沙は機関士らしくそう思う。



ディーゼル機関車でも、その関係で

カーブで横に力が掛からないように、と

ゆっくり走ったり。


重さが、電車とは比較できないくらいだから。



そんなことを連想する理沙、だった。

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