第561話 at 17
友里恵は、まだ続けている。
♪はなーびらーぁぁぁ・・・ぬれているのよー♪
と、ぶりっこのポーズ。
由香は「よせって、 バカ」と、笑いながら
後ろからおでこをつかむ。
友里恵は、さらに
♪指もーぉー、触れてくれないのぉー
その指で・・触れてぇ・・・ここっ、ここっ♪
由香は、友里恵を引っ張って「アホ」
おじさんたちは少し飲んでいて、楽しそう。
拍手拍手(^^)/
友里恵は「受けてんじゃん」と。得意顔。
由香「下ネタで受けるなって」と、笑って。
♪すけーべぇーな彼女にーぃ・・・夢中だってぇ♪
由香は「スティディだろ、それ。この中卒女」
友里恵は「今はトレンドだって中卒。山之内ちゃんみたいに」
由香「クスリ屋さんかいな」
友里恵「そこでクスリと笑う」
由香「さぶー」
おじさんたち、楽しそう「もっとやれー」
楽しく、楽しく・・・・九州の旅は終わり、山陽本線2列車「富士」は
下関から瀬戸内を遡上し始める。
ここからが長い。それもまた、今は旅の楽しみだ。
新幹線や飛行機の旅が出来るので、ゆったりとした時間を過ごす旅と言うのは
却って贅沢なのである。
それも、豪華列車のようなものでなく・・・・
かつての栄華を偲ぶような、昔ながらのビジネスライクな寝台列車に乗ると
揺ぎ無い社会。それが永遠に続くような幻想に陥る事もある。
そう、かつての「昭和」である。
昭和ですら、天皇の名前なので・・・永遠なワケは無いのであるが。
食堂車の愛紗と菜由は「友里恵ちゃんたち、なにしてんだろう」と・・・。
菜由は「まあ、また・・・どっかでライブしてんでしょ」と、そんな風に思いながら
草深い山陽本線をゆっくり走っている列車の揺れを楽しみながら。
友里恵は、急に真面目モードになって ♪Loving You。
♪愛するってカンタン・・だって、ステキなことだもん・・・
とか、歌う。
長い髪がさらりと、流れて、瞳閉じて歌うと、ちょっとどっきり。天使さんのようで
由香も黙る。
何かが宿った、みたいな・・・。
2オクターブ上のハイ・トーンも綺麗。
1曲歌ってて。
おじさんたちも黙って聞いていて。終わってから
「おじょーちゃん、かわいー」とか。
「いいよー」とか。
一応、音楽わかるひとみたい(^^)。
ロビー・カーの椰子の木、臙脂のソファ。窓際のゴムの木。
なんとなく’70sのこの感じも、とってもステキに見える。
壁紙の縞模様、四角い壁掛け時計・・カウンター。
大きな窓。
列車が揺れると、ことん、ことん・・・ゆらゆら。
由香は、歌い終わってにっこりの友里恵に「オマエ、バカか利口かわからんなぁ」
友里恵はちょっと俯いて、「スイート・リトルデビル」と、舌だして。
えへ。
由香は「スイートばっか食ってるデブだろ。リトルだし」
友里恵はいつもの顔に戻って「悪かったな」と、笑う。
由香は「音楽っていいね」
友里恵「うん。タマちゃんも言ってたな。アイドルになれば、って」
由香は「ネットのだろ」
友里恵は思い出すように・・「うん」
それは17歳の頃だったけど。ほんのちょっと前みたいな気がする。
取り合えず、で・・・バイトしてた朝のコンビニで知り合ったんだ。
それから、友里恵の人生が変わってしまった。
なにがどう、変わった、と言うわけでもないけれど
投げやりに考えるのを止めた。それだけだった。
誰かが、ちゃんと見ていてくれる。そう、解った。
それだけだったのだけれども。
幼かったのだろう、友里恵はそれがなんだかわからずに、泣いた。
どうしていいかわからない気持ち、だった。
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