第550話 selenade

「ドクター」とか、愛紗が言うと、由香は


「お、乗ってきたねぇ」


友里恵は「でも、そのネタさっきも言ったぞ、無限キャベツ」



菜由は「なにそれ」

笑顔で。



由香は「ループだろ、無限ループ」



門司駅では、機関車を付け替えるので10分くらい停車している。



すぐそばに海が見え、灯りをつけた船が何艘も、波に揺られて、ゆらゆら。


その向こうに陸が見える。それが本州。



友里恵は「お船見えるねー」と、灯りが揺れている船を見つけて。


愛紗「イカ釣りかしら」


菜由「そうみたいね」


由香「イカ娘」



友里恵「人前で言うなーって」と、笑う。



由香「何が?ああ、イカ臭いって?」ハハハと、笑う。



友里恵「♪ばばんばばんばんばーん、ちゃんと洗えよー」



菜由「ま、いいか・・・洗うだけじゃ」

そこそこノイジーな食堂車だけど、止まっている間は静か。



友里恵は「機関車を何で、付け替えるの?」



愛紗は「海の底通るから、錆びるんだって。ステンレスの機関車じゃないと」




友里恵「物知りだね、愛紗」




由香「だって、鉄道員・・・なんだっけ、お父さん」と、思い出したように。



菜由は「そうだ、宮崎行ってそのルーツを探すの忘れて」




愛紗は、笑って「もういいよ、それは」



食堂車がゆらり、と揺れて。




車内放送が入る。


ーーー寝台特急、富士号。東京行きです。まもなく発車です。

お乗り間違えの無いように。お見送りの方はデッキからお願い致しますーー




ホームの発車ベルが鳴る。




友里恵は「まもなく発射でーす」


由香「よせって。人の居るとこで」



愛紗「なにが?」



菜由「あ、別にいいのか・・・・。」


友里恵「ロケットでしょ」



由香「きさーまーぁ」と、ひっぱたくマネ。




食堂車にはドアが無いので、わからないけれど

ドアが閉じたらしい。



汽笛が、高く、淋しく鳴って。



ごとり




列車が動き出した。




由香は、車窓を眺めて「あーあ、さよなら九州か」


友里恵「また来ればいいじゃん」



由香「そりゃそうだけど」と、言いながら、過ぎていくホームを眺める。


コンクリートのままのホーム。古いレールの柱。スレートの屋根。



ごっと

ごっと・・・・



と、ゆっくりゆっくり。列車は走り出す。



菜由は「ゆっくり行くのがいいね」





友里恵「ゆっくりイクのね」




由香「どーしてもそっちに行きたいらしいな」





友里恵「本州にね」




愛紗「なんのハナシ?」




ホームが途切れると、ポイントを渡って・・・・。


駅の外れの方に進んでいく。


割りと、いきなり・・・・・と言う感じで

関門トンネルの入り口は、すぐそこ。



由香は「トンネルから滴り落ちて、濡れてるんだ、いつも」




友里恵はにっこり「いつも濡れてるの、あんたのトンネル」



由香「関門のな」



友里恵「こーもん?」



由香「アホ」



ごっと、ごっと・・・と、割りとゆっくりとトンネルに進んでいく。



友里恵は「粘膜ずい道」



由香「どこが粘膜なんだよ!」と、笑いながら。


幸い、トンネルなので・・・車輪の音が響いて誰にも聞こえない(^^)。

確かに湿っている感じで、海の底、だったら海水だろうね、と言う感じ。



ほんの数分、で・・・あっけなく、本州側の陸地に出た。



また、車内アナウンスが入る。



ーーまもなく、下関です。お出口は右側、4番乗り場に着きますーー


と、簡素な言い回し。



下関で降りる人などは、いないだろうし。



ーー下関でも、機関車を付け替え致しますので10分ほど停車致します。

ホームにお降りの際、発車時刻にお気をつけ下さい。

駅の発車ベルは、鳴りません。


お弁当、おうどんのスタンドはホーム中ほど、8号車付近に御座いますーー。


まもなく、下関ですーーー。



セレナーデ、のチャイムが、鳴った。



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