第551話 5200ps

ほんの数分、と言う感じで本州側に出ると

築堤の上なので、ちょっと驚く。


車窓左側には「ロータリー会館」と言うパチンコ屋さんのネオンが見える。



愛紗は「なんとなく懐かしいね」と・・・その点滅する赤や緑を眺めながら。


友里恵は、腰をぐるぐる・・・「ロータリー快感」



由香は「下品なギャグは夜にしろ」



友里恵は、車窓を見て「もう暗いじゃん、夜だよ」



菜由は「コドモがよくさぁ、トンネルに入ると「夜だ」なんて言うけど」




友里恵はちょっとイタズラ笑顔「あたしは3歳かい」



由香はにんまり「まあ、体は大人」



友里恵、にっこり「それってオトコの理想じゃん?頭はパーで

体は大人」




由香「そんなアニメキャラみたいな女・・・最近いるなぁ・・・誰とは言わんが」



友里恵「何が言いたい」



由香「べつにー」と、そっぽむいて。



列車はそのまま下関駅に、ゆっくりゆっくり入っていく。

眼下に、ひろーい操車場が見えるのだけれど

夜なので、ただレールが光っているだけ。


愛紗はそれを見て「来る時は朝だったから、機関車が一杯だった」



ブルーの機関車、赤い機関車。

コンテナ列車。


どこへ行くんだろう・・・と、思いながら。


菜由は「さよなら九州、か」と、旅愁に耽る。窓ガラスに触れて。




友里恵はくすくす。


菜由は、窓ガラスから手を離し「何がおかしい」



友里恵はにっこり、そっぽ。「べっつにー」



愛紗は「旅に出る前って、友里恵ちゃんと菜由って、そんなに仲良かったっけ」




菜由は「うん、そういえば・・・・話す機会はそんなに。交番が違うし。同じ仕事に

あんまりならないし」




ゆっくり、列車はブレーキを掛けて。


すこし右カーブしている下関駅の上りホームへ。



こっとん、こっとん・・・・。


停止位置。




空気ドアがばたり、と開く。



友里恵「うどん食べる?」


由香「よく食うなあ」



友里恵「いいじゃん」



由香「食堂車に持ち込むのか?」



友里恵「あっそーかぁ」と、あっけらかん。「じゃさ、ホームで食べてくるとか」



菜由は「乗り遅れるよ」



愛紗「そうそう。浴衣でスリッパのおじさんがよく・・・」と、笑顔で。




友里恵「ありそうだね、15分停車とは言え・・・。」



由香「どっちにしても、もう遅いよ」



うどんスタンドには、お客さんがいっぱい。

今から並んでも・・・である。



友里恵は「ふく天うどんー」と、駄々捏ねるマネ。



由香「よせよせ、いい年こいて。恥かしいぞ」



友里恵「いやー、食べるーぅ」両手を抱えて、ゆらゆら。



由香「キモイぞ」


友里恵「ハハハ」



菜由「そういうの、やったことないな」




愛紗「お姉さんだもんね」





友里恵「やってみたら」



菜由は、友里恵の真似「いやーぁ、食べるーぅ・・・って、さぶいなコレ」



友里恵「ハハハ、わかってんじゃん」




菜由「なんかフクザツだなぁ、そう言われると」



食堂車のお客さんで、結構盛況。

走っていないので会話も弾んでいる。



ビニールのテーブルクロス。窓際に花瓶。ほんのり、灯り。



ホームが明るいので、そんなにムードを感じないけれど


夜、走っているとなんとなく・・・旅情。

列車の旅は特別だ、と感じる一瞬かもしれない。




友里恵は「食堂車なんて、入ったこと無かったな」


由香「うん。ないもんね。新幹線も、今は」



菜由は「そうだね。そんなに長い時間乗らないし」



ゆら、と客車が揺れて

機関車が離れていったことがわかる。




車窓左側から、ブルーの電気機関車が隣の線路を前に進んでいく。



EF66-52。


静かに、重々しく。5200psを秘めて。

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