第543話 おでん

10号車、B寝台個室「ソロ」は

デッキとの仕切りがガラスの引き戸になっていて


金色の☆。

SOLO

COMPARTMENT CAR


と、いかにも特別な感じ。


足もとを踏むと、スイッチが入って

空気が送られる音がして


ぴしゅ


がらがらがら・・・・とガラス扉が開く。



友里恵は「なんか、喫茶店みたい、昔の」



由香「ああ、駅前にあったね。山北の」(^^)。



菜由「うんうん、鹿児島にもあったな。フルーツパーラーとか」



愛紗「なつかしい。昭和」



友里恵「宮崎にもあった?」



愛紗「宮崎って言っても、ウチは飫肥だから全然田舎」



菜由「そうそう」



愛紗「菜由が言うの?」



菜由「ハハハ」



賑やかに10号車に入る。

普通のリノリウムみたいなフロア。


壁はクリーム色の壁紙が貼られていて。

天井は少し低い感じがするけど、上が収納になっているから、もある。




じゃ、一旦解散ー、って言って

みんな、それぞれに自分の部屋へ。



愛紗は、2階個室なので

シリンダー鍵を回してスライドドア。

からからから・・・と、これが深夜だと

結構気になる音だったりする。


扉を閉じて、階段をあがって2階に。


そこのフロアにベッドもある。


静寂。




今までのロビーカーが、割りと賑やかだったけど

こっちは寝台だから、静か。


ふと、旅情。



そんな愛紗の背景に、窓の向こう・・・行橋の駅の風景が映る。


高架の駅で、ドームみたいな防音壁があったり

ずいぶん都会的。




ホームのアナウンスが「へいちくせんはお乗換え」と聞こえる。



青い、メタリックの直線的なデザインの特急列車が見える。



愛紗の乗る2列車、寝台特急「富士」は、ブレーキを掛けて

ゆっくり減速していく。

2階だけど、そんなに減速度は感じない。


窓の外が暗くなっているので、愛紗も「ああ・・・終わっちゃうんだな、旅」と

同じ夜行なのに、来る時は



これから旅。



そういう、わくわくする感じがあるのに

帰りの夜行って、なんか淋しい。




そう思う愛紗。



「これから遊びに行く人はわくわくしてるんでしょうね」と思ったり。






同じ頃・・・・・。



由香の部屋に来ていた友里恵はホームのアナウンス「へいちくせん」を聞いて



「屁?」




由香「きたねーなぁ、するなよ」




友里恵「そーじゃなくて、駅でへーちくせん・・・って」


由香は窓の外を見て「平成筑豊鉄道、じゃない?」



友里恵「へーちくっていうとさーぁ、しなちくみたいじゃん」



由香「やっぱ食い物かい」



友里恵「それか、ちくわぶ」



由香「おでんかい」



友里恵「ちびタのおでん♪おでん♪。あー、おでん食べたくなってきた」



由香「食堂車で売ってんじゃない?」



友里恵「そーか。早くいこいこ」




由香「まだ食うのか」


友里恵「ハハハ」





と、にぎやかな二人。




菜由はと言うと、ひとり部屋に落ち着いて。



一階席なので、足もとはなんとなく広い。

でも、頭の上が2階席のベッドなので

凸型に狭くなっている。



それはもう慣れた。「2階は2階なりに広いのかな」と・・・。

愛紗の部屋に行こうかな、と思って

ドアを開いた。



ところに。


友里恵がドアを開こうとしていたので

そのまま部屋に。



「おっとと」




転がりそう。





菜由が支えて「あ、ごめん」




由香は、友里恵の後ろから「おっとととーの、おっとっと」



友里恵「コント芸人かい」



由香「そりゃあんただろ」




友里恵「コンビじゃん」




ハハハ、と笑って「アレ?何してんだろ、あたし」



由香「おでんだろ」



友里恵「ああ、そーだった。」

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