第542話  真夜中のドア

由香は「顔洗って来よ?」と、友里恵の背中を、ぽん。


友里恵は、頷いて。


とことこ。9号車の方へ。


ロビー・カーの愛紗と菜由に「顔洗ってくるね」



菜由は「10号車に戻ろうか、9号車に行くんだし」


愛紗は「お酒持ってって。あとは、片付けといた」

と、素焼きのびんを振って。



由香は「ありがと。じゃ、先行ってるね。」と、友里恵と一緒に9号車、A寝台個室へ。


列車は結構、速度をあげて。

もう、暗くなっていて・・・窓辺には、海辺のあかりが、ぽつり、ぽつり。


高台の線路を、かなりのスピードで寝台特急「富士」は小倉へ向かっている。



「洗面台は綺麗だね」と、友里恵。


手をかざすとお湯が出る。

ボウルの上にあるレバーを右にすると、水。


「おばあちゃんがね、お湯で顔洗うと老けるって言ってた」と。



由香はにっこり「友里恵、おばあちゃん好きだもんね」



友里恵はにっこり。


長い髪は、後ろに流していて。肩よりちょっと下くらい。

顔洗うので、ちょっと纏めて。


両手で、お水を掬って、顔を洗う。


お水が、頬に当たって撥ねる。



さらさら・・・と、気持良さそう。



ハンカチで拭って「ふぅ」と、友里恵はにっこり。

鏡を見て「てくまくまやこーん」



由香は笑って「それは、ダレもわからんだろ」



友里恵は「ぱらりん、りりかる」



由香は「それはマイナーすぎるし、鏡出てこないじゃん」




友里恵「あれ、そーだっけ」

と、笑いながら。



由香は「オマエ、切り替え早いなぁ」と、笑って。


友里恵、ちょっと考え「引きずる方がかわいいかな」



由香は笑って「演出するなって。マコちゃんかい」



友里恵「マホウのマコちゃん」



由香「それも古いネタだこと」



友里恵「小室マコちゃん」



由香「ダレそれ、AV?」



友里恵「アハハ。それはマリちゃんじゃん」



由香「詳しいなぁ。お兄ちゃんいるからなぁ」



友里恵「お兄ちゃんは上手くやってたね」




由香「じゃ、タマちゃんかい」



とか、話してると愛紗と菜由が通って「じゃ、ソロに戻ろか」と、菜由。





友里恵「そのあとでさ、食堂車見てみない?来る時見れなかったし」




菜由「いいね。お茶でも」



愛紗「空いてたらね。混んでると悪いし。ご飯の人が居たら」




由香「ここのレストランって、豪華ディナー?」



愛紗はかぶりを振って「ここは普通。一品で。昔ながらの。

だって「日本食堂」だもん」


菜由「日食九州だっけ」



愛紗「そうだったかなー?パティに聞いておけば良かったな」



菜由は「ずっと一緒にいるみたいだったけど、居なくなるとなんか」



友里恵は、ちょっと思いだして淋しそう。



菜由は「あ、ごめんね。泣かないで」



由香は「だいじょぶだいじょぶ。よしよし」


と、友里恵の頭を撫でて。



友里恵も「うん」と、にっこり。




愛紗は「幼馴染っていいね」




由香「なんとなくね。そーいうもんだと言うか」



友里恵「うん」と、笑顔になって。



菜由「じゃ、焼酎のびんを置いて来て。それから」


と、指差して10号車の方へ。


ふかふかの絨毯のA寝台個室、廊下を歩いていく。

靴であるいていいのかな?と思うくらいに綺麗な絨毯。

ドアはマホガニーの壁紙が貼ってあって、重厚な雰囲気。


ガラスはスモークで、中の様子がわからない。



友里恵「秘密の小部屋」



由香「なんか怪しいなぁそれ」



友里恵「真夜中のドア」


由香「来た来た」


友里恵「真夜中の前のドア」



由香「言うだろうと思ったよ」




友里恵「あたし、真夜中のドアを・・・ひそかに。ゆびで触れて。

ああ、帰らないであなた・・・と泣いて。

心が砕けたわ」



由香「パティがいた間、できなかったもんなー、エロ」




友里恵「ぬきさしぬきさし」




由香「いきなりどぎついなぁ。今夜にしろ」


友里恵「ハハハ」







列車は、かたんかたん・・・と、結構な速度で。



♪ハイケンスのセレナーデ♪



オルゴールが鳴って



ーーまもなく、ゆくはし、ですーー



と、シンプルなアナウンス。


ここで、乗り換える人もまあ、居ない。

特急なら、電車の方が速いし

この列車に乗る人は、九州の外へ行く人だから。

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