第534話 中山香

「列車の旅って、レトロなのがいいね」と友里恵。



由香「ああ、そうかも。この内装もなんとなく昭和レトロ」

壁紙が縞々だったり、フロアがビニール風の市松模様だったり。


ゴムの木があったり。


低い間仕切りの間にも、緑。


ソファは、臙脂色のふかふかで

コーナーソファが窓に向かって。

窓際にスツール。低い背もたれのある丸い。


ガラスのテーブル。


壁に掛かっている電池時計は、四角くて

数字が12、3、6、9だけ。


アトは棒。


秒針がすー・・・と、途切れずに動く。



壁際にステレオがある。8トラック、と言う

ほとんどカラオケでも見かけないテープのステレオで

BGMを流している。



菜由「なーんとなく・・・喫茶店で、夜はスナックとか」


パティ「由布院にもありましたね。駅前通りの大分よりの方」




友里恵は、買って来たごはん、とりめしのおにぎりとか・・・

かきあげ。


お芋の千六本、ニンジンの千六本。ごぼうの千切り。




車掌さんのアナウンスが入るけど、ロビーカーは車輪の音が大きくて

よく聞こえない。




♪ハイケンスのセレナーデ♪




ーーご乗車ありがとうございます。この列車は寝台特急「富士」号、東京行きです。

日豊線、山陽線、東海道線経由です。

これから停まります駅と、到着時刻をお知らせいたしますーー


次は、宇佐に着きますーーー






理沙は「そのお芋、おいしそう」と。



友里恵は「どーぞ」と、お皿に分けて。お箸と。



まだ、揚げたてっぽく温かい。


衣は少しホットケーキっぽく黄色くて、じゃこが混ざっている。



さくっと揚がっていて、お芋はほこほこ。さつまいも。

人参も甘くなっている。



「うん。いいね。時々、大分駅で買って帰るけど。」




パティは「理沙さんは寮でしたっけ」



理沙は「そう。ラクでいいもの。時間がまちまちだし、毎日。ご飯の支度だけでもラク」



駅に近い、静かなところにだいたい・・・・寮はある。



「大分より、佐伯とかあっちの方が静かでいいけど」と、理沙。



パティ「電車だと佐伯でもいいですね」



理沙「そう。夜に佐伯終点で、来て」



佐伯の駅からすこし港ヨリに歩くと、女子寮がある。


男子寮はそこより更に港寄り。


静かな町なので、昼寝もできそうだ。


寝台特急「富士」は、緑深い山あいを過ぎて

平地に出る。

国東半島を渡ったのだ。



広い電車基地と、側線が沢山ある信号所、のような所で停止。




アナウンスが入る「信号停止です」





しばらく待っていると、ブルー・メタリックの直線的な電車特急が

傾きながら追い抜いていった。



「速いねー」と、友里恵は窓の向こうを駆け抜けて行った電車を見送って。



パティは「博多ゆきですね。小倉まで1時間くらい」



特急「ソニック」。



愛紗は、一緒にご飯を頂きながら「ここで食べてていいのかな」ふと。


菜由は「いいんじゃない?お弁当売ってるくらいだし」


ロビーのカウンターで、お弁当を並べて売っていたりする。


買っていくけど、大抵は寝台で食べているようだ。



菜由は「修学旅行の時も楽しかったー。寝台列車でお弁当食べて。おしゃべりして。

寝て。」



友里恵は「いいな、そういう修学旅行って。あたしは新幹線で昼間だったし」


由香は「バブルの頃はさ、飛行機で韓国とかだったらしい」



友里恵「パティはさ、外国行った?」



パティは、かぶりを振って「いーえ。寝台で京都とかでした」



しばらくたつと、寝台特急「富士」は


がたん


と、走り出して



車掌さんのアナウンスが「お待たせいたしました。発車致します」



ごっとん

ごっとん・・・


と、長い編成は少しづつ進んでいく。


ぐい



と、赤い機関車が引っ張っていく。

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